2019年3月3日日曜日

中原幸子「朱に染まりましたが何か、春の風」(『柚子とペダル』)・・



  中原幸子第三句集『柚子とペダル』(角川書店)、帯の惹句は坪内稔典。それには、

 中原幸子の俳句、変だよ。/うん、変だからおもろしろいね。/彼女、八〇代だよ。
 うん、八〇代の常識はずれだね。/俳句って、自在な言葉だよ。
 うん、感受性や思いもね。いいなあ、中原幸子の俳句!

 とある。集名に因む句は、

  柚子たわわ母にかなわぬことばかり
  父はペダルだったな小鳥来たりして

 変な句というわけではないが、読点(句点)の入った句が意外に多い。アトランダムにあげると、
 
  シーラカンス抱きしめるしかないか、月     幸子
  さて、と注す目薬二滴昭和の日
  残暑様、これから少し酔うところ
  だが、と来る人にあげよう温め酒
  あ、雪といえばりんりん鈴りんりん
  母になる母のようには、あ、桜
  行ってらっしゃい。行って…・秋の海
  もっとかなしくなれるでしょうか、水仙
  黙れ、などと言われ耀く寒の月
  しーっしずかにフルーツ山盛りパフェが、あっ
  め、めろん。も、もしか。な、夏子
  新涼のでもね、とメモの残されて

 句読点を持つ句は、ブログタイトルに挙げた句を加えると13句(集の収録句は298句)、もしかしたら、一行棒書きでも一向にかまわないのに、あえて、ここに、定型を切るための、句読点を入れるのは、いわゆる俳諧的な切字ではないということの主張なのではなかろうか。いわゆる俳句の常識はずれ、なのだ。中原流レトリックとでもいえばいいのかもしれない(中原幸子の先生・坪内稔典だって一句集にここまでではいかない)。ともあれ、以下に、愚生の好みに偏するがいくつか挙げておこう。

  梨が来た一個一キロ二個二キロ
  遺書二行行間一行木の実降る
  涙が次のページに落ちて夏の暁
  冬夕焼あめ玉に種なかりけり
  白が好き青好き黄好き春の好き
  慈姑び芽まだだまだまだまだだ
  夕焼けて吊革なんか譲られて
  し残して死ぬっていいな梅雨明ける

 中原幸子(なかはら・さちこ) 1938年、和歌山県生まれ。佛教大学大学院在学中。



          撮影・葛城綾呂↑

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