2019年3月18日月曜日

藤本夕衣「道果てて初花のあり川のあり」(『遠くの声』)・・



 藤本夕衣第二句集『遠くの声』(ふらんす堂)、帯文は中嶋鬼谷、それには、

   掌にみづうみの水なつやすみ

 渚に立つ聖女の姿を思わせる一句。
 作者の師田中裕明の、
   みづうみのみなとのなつのみじかけれ
 に和した作であろう。
 本句集の作品世界はすずやかで透明であり、いのちの讃歌の一集である。

 と惹句されている。集名に因む句は、

   野遊の遠くの声に呼ばれけり    夕衣

 だろう。著者「あとがき」には、

  「ゆう」終刊の一年後には、百句を編んだ『風水』を製本し、身近な方々にお渡ししました。その後は「静かな場所」に参加し、田中裕明の作品と文章に学び、また、綾部仁喜先生と大峯あきら先生のご指導を受けました。仁喜先生には、己の境涯を受け入れ詠み続けることを、あきら先生には、自分を見つめ、季節の言葉の内に生きることを教えていただきました。

 とあり、それぞれの師を偲ぶ句が寄せられている。

    田中裕明三回忌
  ペンの鞘固く閉ぢをり冬木の芽
    悼 綾部仁喜先生
  寒木にしたしきはこの朝日かな
    悼 大峯あきら先生
  凍る夜の月の方へと帰りけり  
   
 ともあれ、集中よりいくつかの句を以下に挙げておこう。

  子どもらにひとだまの出る大枯木
  片耳にとばされてゐる雪兎
  育つことかなしくもあり初氷
  赤き実もにぎる子の手も冷ゆるもの
  凍る夜に生まれくるものありにけり
  囀や「泣いたつてママこないのよ」
  この国の陰に入りゆく冬日かな
  あたたかき星に生まれて眠りけり
  
藤本夕衣(ふじもと・ゆい) 1979年、愛知県出身。

  


★閑話休題・・・中村安伸「絵硝子に祇園の冬の水あつまる」(「静かな場所」第22号より)・・・


 藤本夕衣つながりで「静かな場所」第22号(デザイン・藤本夕衣)。特集は「対中いずみ句集『水瓶』鑑賞」。竹中宏「『水瓶』と蘆と龍」、柳元佑太「水面が写す」、和田悠「発心の一度きり」が執筆している。さすがに竹中宏の作者への檄を含んだ鑑賞の結びは見事であった。
 
 (前略)「いかにして、いつ自分の文体をうちやぶってゆくか」とは、かつて、田中裕明が対中さんに贈ったことばである。俳句への能動的な意志が、俳句の枠をこえるなにかにゆきあたったとき、ひとりで堪えて進むほかはない。

 招待作品は中村安伸「延長コード」。以下に、愚生好みに偏するが一人一句を挙げておこう。

   みな背負ふ冬青空や坂の町      中村安伸
   この年の氷を待たず逝かれけり   対中いずみ
   わが影にあつまるものら冬の水    満田春日
   水引きし泥に冬日の満ちてきし    森賀まり
   顔見世の跳ねて四条の大通      和田 悠


1 件のコメント:

  1. >片耳にとばされてゐる雪兎

    片耳の、では?

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