2019年8月29日木曜日

仙田洋子「くすぐつてあやしてからすうりの花」(『はばたき』)・・



 仙田洋子第四句集『はばたき』(角川書店)、集名の由来については、著者自身が、

 今回の第四句集には、基本的に二〇〇五年から二〇一二年までの作品を収めた。『はばたき』という句集名は、二〇〇五年から愛すべきインコ達が家族に加わったこともあり、また毎日のように庭に野鳥達が来てくれることもあり、〈はばたきに耳すましゐる冬至かな〉からとった。

 と、記している。また、「あとがき」後半になると、

 穏やかな時間が流れているように見えながら、人生の地雷は日常生活の何処に隠れているかわからない。「銀貨」の章の〈友よかの世の空も夕焼けてゐますか〉以下六句は彼女を悼んで詠んだ夥しい数の句から選んだものだが、どれだけ言葉を尽くしても、どれだけ空を仰いでも、友を蘇らせることはできない。

 と、悲痛に語っている。愚生より一回り以上若い仙田洋子にも、禍福を含めて、人生の巡り合わせが訪れているのだろう。帯の惹句には、

 前句集から11年。ユーモアと独自の眼差しで詠んだ、詩情と愛が溢れる珠玉の作品集。

 とある。それでもまだ、本集には収録されなかった2013年以後の句が多く残されているようだ。刊行が待たれる。ともあれ、以下に愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておこう。

  白鳥の首よこしまな曲りやう       洋子
  背泳ぎのひとかきごとに曲りけり
  海鼠らのじつと開戦前夜かな
  たんぽぽを摘みためて母訪ねけり
  秋の暮足遅き子はさらはれて
  綿虫のなきがらを見ることもなし
  うすものやくるみ殺すといふことも
  くすぐつてあやしてからすうりの花
  戦没の手のからみつく浮輪かな
  鍵盤に並べなら・かし・くぬぎの実
     悼・脇祥一さん
  花八手よりもしづかに逝かれけり
  初明り死にたての死者手を挙げよ
  虹二重てふてふには遠すぎる
  冬桜涙だんだん大粒に
  
仙田洋子(せんだ・ようこ) 1962年、東京都生まれ。



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