2019年8月4日日曜日

行方克巳「空蟬に象が入つてゆくところ」(『晩緑』)・・



 行方克巳第8句集『晩緑』(朔出版)、集名の由来について、著者「あとがき」に、

 (前略)昭和、平成そして令和を迎えた今も「季題発想」という私の作句信条は変わることはない。
 また、俳句は「何を詠まなければならないのか」ではなく、「何をどう詠めばいいのか」であるという私の気持も変わらない。
 この度の句集名は「新緑」に対しての「晩緑」というほどの心である。

 と記している。それを句中にさぐると、さしずめ、

  立志伝すぐに晩年緑濃き     克巳

 ではなかろうか。愚生が言うのもはばかれるが、その地平は、行方克己の新境地のいくばくかを拓いていよう。ともあれ、集中より愚生好みに句を抽いておきたい。

  出口なき入口ふたつ夏の夢
  短夜の夢にこゑ喪ひしこと
  沈むべく泛くべく沈み水海月
  初夢の死んだふりして死んでゐる
  成人式不参「少年A」のまま
  この沼の食物連鎖草いきれ
  東京は住みよき荒地野菊かな
  好色の美徳すたれて西鶴忌
  秋風の一大虚無であらんとす
  鳳仙花ひとり遊びのいまもひとり
  どれも千円全部千円十二月
   齋藤愼爾に句集『陸沈』あり
  陸沈また我が志寒椿
   慶應義塾中等部二十八期生、栗原究宣君他界。
   初めて担任した生徒であった。
  死ぬる日のありて死ぬなり春疾風
  いつの世の花の乞食(ほかひ)でありしかな 

 行方克巳(なめかた・かつみ) 1944年、千葉県生まれ。



撮影・葛城綾呂 タチアオイ↑

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