2019年9月6日金曜日
谷口智子「冬満月阿部鬼九男の訃報聞く」(『蛇眠る』)・・
谷口智子第一句集『蛇眠る』(現代俳句協会)、第一句集とはいえ句歴は長い。昭和50年、加藤かけい主宰「環礁」に入会し、句作40年余りという。ブログタイトルに挙げた阿部鬼九男の追悼句があるが、阿部鬼九男もまた加藤かけい門だった。2015年12月19日に没し、享年85。谷口智子の略歴をみると、愛知県刈谷市、浄土真宗大谷派末寺にて誕生とあるから、集中に、
暁烏敏全集雪の万年床 智子
の句があることも頷ける。暁烏敏(あけがらす・はや)は真宗大谷派の僧侶で、仏教の近代化と精神主義の鼓吹に努め、戦時中から眼を病み、後に失明。1951年には宗務総長となり、句は虚子学んだという。
集名に因む句は、巻尾の、
蛇眠る椎の木樹齢八百年
だろう。この句の椎の木は「あとがき」にある、
生家の境内に市の天然記念樹に指定された樹齢八百年と言われている椎の大木があります。昭和三十四年九月の伊勢湾台風で半懐しましたが、いまも春になれば芽吹き、夏には生い茂り、特有の匂いお発散させます。秋には黒光りした木の実を落とします。
という椎の大木のことである。ともあれ、以下にいくつかの句を挙げておこう。
人体の壺に花びら殺到す
凍蝶を広辞苑より剥がしけり
印鑑より水が漏れ出る大枯野
仏壇を背負いきれない春の昼
貨物列車出てゆく蛇を眠らせて
花の昼死なせてあげたき人と居る
捨て切れぬ一つ一つが冬に入る
空爆のさなか秋刀魚を裏返す
隣席は泡立草となっていた
二月の部屋誰も居ないが誰か居る
★たまたま、谷口智子が現在所属する同人誌「韻」第36号(韻俳句会)が届いたので、その号からも以下に二句挙げておこう。
あの世より椿の落ちる音がする 智子
螢とびあるかなきかの老いの恋
谷口智子(たにぐち・ともこ) 1942年、愛知県生まれ。
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