2019年1月4日金曜日
渡邉美保「矢印の最後は空へ冬桜」(『櫛買ひに』)・・
渡邉美保第一句集『櫛買ひに』(俳句アトラス)、集名に因む句は、
烏瓜灯しかの世へ櫛買ひに 美保
である。序はふけとしこ、跋は内田美紗。著者が「けむり茸」で第29回俳壇賞を受賞した作品について、ふけとしこは、
発表された作品を見て、私が注目したのは〈拾ひたる昼の蛍を裏返す〉であった。蛍を拾うとは、すでに骸となっているのだろう。昼間見ればただの黒い虫でしかない。その虫が蛍であると気づき、裏返してみて、発光器の辺りを観察したものか、素通りにはしないという眼の力と好奇心とを感じさせるからであった。
と記している。また、岡田耕治の帯文には、
けむり茸踏んで花野のど真ん中
渡邉美保さんが切り取った風物、それぞれに息を鎮めて立ち会うと、生きることのかなしみは生きることのよろこびであると思えてくる。
書くほどに加わってくる自在さもまた、同時代を生きる私たちの動機になるにちがいない。
とあって、著者への期待が伺われる。跋文の内田美紗は、著者の人物について、
(前略)だんだん美保さんが分からなくなってくるという次第。
でも、この精神の多面性は、一読平明とも思える美保さんの俳句に微妙な陰影を添えている。
人も俳句も「わかる、わかる」と予定調和の範囲で頷き合っているより、ギャップや意外性が大きいほうが面白い。
と述べている。ともあれ、集中よりいくつかの句を以下に挙げておこう。
魚くはへ腋のゆるびぬ青鷺は 美保
まつ黒のマリア観音冬の虹
薄氷にひび老木に刀傷
寄居虫の殻を出たがる脚ばかり
きのふ鷺けふ少年の立つ水辺
夏至の夜の彷徨シイノトモシビタケ
うろこ雲廃船にある水たまり
燐寸より生まるる火影憂国忌
海鳴りの暗きへ鬼をやらひけり
蓬来や海ひろびろと明けきたる
渡邉美保(わたなべ・みほ) 1948年 熊本県天草市生まれ。
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