2022年7月19日火曜日

大田土男「哲学を習ひ始めて麦を踏む」(『田んぼの科学』)・・


  太田土男『田んぼの科学ー驚きの里山の生物多様性ー』(コールサック社)、帯の惹句に、


 日本の里山の季語をやさしく深く解説!

 長年農業研究機関に勤めた俳人が案内する、豊かなる田んぼの四季と動植物たちの世界


とある。著者「あとがき」には、


(前略)私は長く草地生態学に関わる仕事をしてきましたが、日本の自然の中での稲の凄さにはいつも関心を持ち続けてきました。特にここ十数年の間に、稲作技術は大きく変わりました。歳時記を見ると絶滅を危惧する沢山の季語を生じました。耕し、田植え、稲刈りなどは機械でするようになり、季語には新しい意味が加わりました。こんな時、田んぼに関わる季語を深耕し、科学することは大事なことと思えてきたのです。

 書き進むうちに、里山、田んぼの生物多様性の素晴らしさにも触れたくなりました。一方、稲作技術が大きく変わる中で、これらの生きものたちの悲鳴をも聞こえてきます。田んぼには生物多様性が凝縮しています。これはもう環境問題です。

 里山、田んぼを季節の折々に通い、俳句吟行のホームグラウンドにすることを提案しておきます。


  ともあった。内容は、「田んぼの四季」を、春夏秋冬でそれぞれ解説し、さらに「田んぼのさまざま」「田んぼの近くで」「機械化時代の田んぼを詠む」など、ページを開けば、どこからでも読めるように、なっている。ともあれ、文中に挿入された句のいくつかを以下に挙げておこう。


   げんげ田に泣く弟を姉が抱く      太田土男

   落し水鯰も落ちてゆきにけり       〃

   稗飯といふものも出て秋収め       〃

   籾殻焼母に呼ばれて日暮れなり      〃

   田起しの山の谺の機嫌よし        〃

   生きかはり死にかはりして打つ田かな  村上鬼城

   漣のなせるままなり浮早苗       若井新一

   小水葱咲く畦やはき大和かな     山田みづえ

   刈られたるものもはげしき草いきれ  遠藤若狭男

   こがらしや壁の中から藁がとぶ     三橋敏雄

   水の地球少し離れて春の月      正木ゆう子

   疑わしき草は抜かれて稲の国      池田澄子



      撮影・芽夢野うのき「雨の日の蓮花咲けり兄逝けり」↑

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