2016年12月17日土曜日
大牧広「やがて雪されど俳句は地平持つ」(『俳句・その地平』)・・・
大牧広『俳句・その地平ーその地平の夕映は美しい』(文學の森)は、雑誌「俳句界」(平成23年~平成27年12月)の約4年間に渡って連載されたものを一本にまとめたエッセイである。第1回が「3.11の俳句から」というのもいかにも大牧広らしい在り方であろう。本著の帯に宇多喜代子が以下のようにしたためている。
少年時代に戦禍をくぐった大牧広は、戦争のない戦後七十年をわが事として考え行動している。それゆえに抱え持つ反骨の視力でこの世の「いま」を見据えたのが『俳句・その地平』。
これに同伴するのが折々の俳人である。戦中派ならではの正眼の構えで立ちながら、時代と俳句の抱える問題を「わたしはこう思う。あなたは如何」と呼びかける。
また、第19回「甘いかもしれない」の結びを例に挙げると、
「港」の同人句会で筆者は、
花咲きし頃や夜毎のB29
という句を出したが殆どはすでに「B29」が不明であることを知った。うすうすとかつて戦争の相手国であったアメリカの飛行機であることは知っているが、そのB29のもたらした大惨禍はわかっていなかった。
この点を現代史教育の云々と責めることより戦争の惨禍を体験した高齢者が「語り部」のような気持で発言していかなければならぬと痛感した。言わなくてもわかるであろう、やはり甘いのではないかと思っている。
と記されている。それが「わたしはこう思う。あなたは如何」の内容だ。他に、B29関連、戦争体験の句では、
夏景色とはB29を仰ぎし景 広
昭和二十年九月ひたすら雨ばかり
「なにもかも焼けた」と母の灼けし髪
夏旬日ゲートル巻いて眠りたる
三月やわれらを焼きし焼夷弾
また、第36回「行くと思いますか」には、
戦争を思わすような法律が「一強」の政党によって強引に成立されてゆく。
この危うい現状を、いわば、感性で生きている俳人であれば、仮にどうおもわれようとも表白する勇気を讃えたい気持ちでいる(以下数句は略)。
ごまめ噛みこころもとなき国の末 原雅子
書斎とて戦場春の砂袋 宮坂静生
生身魂銃後の虹を語り出す 秋尾 敏
見残しの 後の昭和よ 火打石 大井恒行
権力の心地よき風君にも吹く 筑紫磐井
これらの俳句は、少しも生硬に詠んでいない。やわらかい感性で包み込むように詠んでいる。
と述べられていた。
大牧広、昭和6(1931)年、東京生まれ。
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