金子兜太第15句集『百年』(朔出版)、2008~2018年(88~98歳)の兜太最後の作品736句を収める遺句集である。後記に安西篤。句集掉尾の句は、
河より掛け声さすらいの終るその日 兜太
陽の柔わら歩ききれない遠い家
である。愚生は、兜太は長生きの血筋だから、わけもなく100歳までは絶対生きると思っていた。それでも大往生というべきだろう。兜太は、毎日立禅をすると言っていた。亡くなった友の名を日々唱えるのだが、いつも100人くらいまでは・・と言っていた。長生きの代償のように、本句集にも追悼句で溢れている。なかには、愚生のよく知っている人もいる。本集には、金子兜太の「慶應病院入院に一か月入院 十句」の前書付の中の句に、
いのち問われて十六夜を過ごす
があるが、皮膚病で入院されていたのだ。愚生が病院に見舞ったときに、「さっき鈴木忍が帰って行ったよ」と言われ、少し世間話をした。当時、鈴木忍は「俳句」の編集長をしていて、愚生は、名ばかりだが、「俳句界」の顧問だった。ふらんす堂の山岡喜美子の話も、池田澄子の話も出た。9年前の事だ。兜太はまだ元気だった。ともあれ、追悼の句を、以下にできるだけ挙げて置きたい。
2009年 阿部完市 二月十九日他界
完市よ菜の花も河津桜も雨
川崎展宏 他界
冬樫の青しよ展宏の笑顔
2010年 井上ひさし 他界
白鳥去りの道とぼとぼわが一茶
橋本圭好子 他界
疳高い電話の声よ遠桜
立岩利夫 他界
蟬時雨真面目真顔のまま老いて
林 唯夫 他界
湖国に病みて長かりき直(ちょく)なりき
小林とよ 他界
亡妻と同学の親(しん)蟬しぐれ
森澄雄 他界
堪えて堪えて澄む水に澄雄
上林 裕 他界
残暑酷し他界の友よ木蔭を行け
松澤 昭 他界
引っぱって震わせて山の男の月の唄
2011年 髙橋たねを 他界
流氷の軋み最短定型人(じん)
峠 素子 他界
冴えて優しく河原の石に峠素子
2012年 山田緑光 他界
激しくて草餅の味緑光は
大木石子 他界
汝(な)が生家五月草の香にありき
中島意偉夫 他界
人のためにこの人あり春怒濤
蓮田双川 他界
野に泉味わえば渋し鋭し
加地桂策 他界
夏潮を素裸かで泳ぎ来し塩味
林 杜俊 他界
笑うとき夏の桜島ありき
渡辺草丘 他界
館林にこの人の声山法師
小堀 葵 他界
楊梅(やまもも)の小堀葵と思いきし
辺見じゅんさん 昨秋九月二十一日他界
じゅんさんのいのち玉虫色にあり
2013年 小沢昭一氏 他界
正月の昭一さんの無表情
西澤 實 他界
句と詩のといまも南凕に立つや
村上 護 他界
青葉の奥明るく確と漂泊す
2014年 村越化石 他界
生きることの見事さ郭公の山河
2016年 弟千侍(せんじ) 他界
青空に茫茫と茫茫とわが枯木
妹稚木(みずき) 他界
紅梅えお埋めし白雪無心かな
2017年 日野原重明さん百五歳で大往生
日野原大老ゆっくり真面目そして真面目
撮影・葛城綾呂 寝そべっても毛づくろい ↑
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