2019年10月13日日曜日

金子兜太「妻よまだ生きます武蔵野に稲妻」(『百年』)・・



 金子兜太第15句集『百年』(朔出版)、2008~2018年(88~98歳)の兜太最後の作品736句を収める遺句集である。後記に安西篤。句集掉尾の句は、

  河より掛け声さすらいの終るその日   兜太
  陽の柔わら歩ききれない遠い家  

 である。愚生は、兜太は長生きの血筋だから、わけもなく100歳までは絶対生きると思っていた。それでも大往生というべきだろう。兜太は、毎日立禅をすると言っていた。亡くなった友の名を日々唱えるのだが、いつも100人くらいまでは・・と言っていた。長生きの代償のように、本句集にも追悼句で溢れている。なかには、愚生のよく知っている人もいる。本集には、金子兜太の「慶應病院入院に一か月入院 十句」の前書付の中の句に、

  いのち問われて十六夜を過ごす

 があるが、皮膚病で入院されていたのだ。愚生が病院に見舞ったときに、「さっき鈴木忍が帰って行ったよ」と言われ、少し世間話をした。当時、鈴木忍は「俳句」の編集長をしていて、愚生は、名ばかりだが、「俳句界」の顧問だった。ふらんす堂の山岡喜美子の話も、池田澄子の話も出た。9年前の事だ。兜太はまだ元気だった。ともあれ、追悼の句を、以下にできるだけ挙げて置きたい。

 2009年 阿部完市 二月十九日他界
  完市よ菜の花も河津桜も雨 
     川崎展宏 他界
  冬樫の青しよ展宏の笑顔
 2010年 井上ひさし 他界
  白鳥去りの道とぼとぼわが一茶
     橋本圭好子 他界
  疳高い電話の声よ遠桜  
     立岩利夫 他界
  蟬時雨真面目真顔のまま老いて
     林 唯夫 他界
  湖国に病みて長かりき直(ちょく)なりき
     小林とよ 他界
  亡妻と同学の親(しん)蟬しぐれ
     森澄雄 他界
  堪えて堪えて澄む水に澄雄
     上林 裕 他界
  残暑酷し他界の友よ木蔭を行け
     松澤 昭 他界
  引っぱって震わせて山の男の月の唄
 2011年 髙橋たねを 他界
  流氷の軋み最短定型人(じん)
     峠 素子 他界
  冴えて優しく河原の石に峠素子
 2012年 山田緑光 他界
  激しくて草餅の味緑光は
     大木石子 他界
  (な)が生家五月草の香にありき
     中島意偉夫 他界
  人のためにこの人あり春怒濤
     蓮田双川 他界
  野に泉味わえば渋し鋭し
     加地桂策 他界
  夏潮を素裸かで泳ぎ来し塩味
     林 杜俊 他界
  笑うとき夏の桜島ありき
     渡辺草丘 他界
  館林にこの人の声山法師     
     小堀 葵 他界
  楊梅(やまもも)の小堀葵と思いきし
     辺見じゅんさん 昨秋九月二十一日他界
  じゅんさんのいのち玉虫色にあり
 2013年 小沢昭一氏 他界
  正月の昭一さんの無表情
    西澤 實 他界
  句と詩のといまも南凕に立つや
    村上 護 他界
  青葉の奥明るく確と漂泊す
2014年 村越化石 他界
  生きることの見事さ郭公の山河
2016年 弟千侍(せんじ) 他界
  青空に茫茫と茫茫とわが枯木
    妹稚木(みずき) 他界
  紅梅えお埋めし白雪無心かな
2017年 日野原重明さん百五歳で大往生
  日野原大老ゆっくり真面目そして真面目
               
     
                                 
         撮影・葛城綾呂 寝そべっても毛づくろい ↑

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