2019年10月28日月曜日
井越芳子「しらかばの木の間あかるき花鶏かな」(『雪降る音』)・・・
井越芳子『雪降る音』(ふらんす堂)、井越芳子にとっては、『木の匙』『鳥の重さ』続く第3句集、平成19年暮れから平成30年4月までの372句を収載。帯文の惹句は、髙橋睦郎。それには、
井越芳子さんは耳の人。
もののほんらい持つ内なる音につねに聴覚を澄ましつづける。目の欲望の過剰がその句にはみじんも無い。この寡欲から生まれる豊穣は潔いばかり。
とある。また、著者「あとがき」の中には、
(前略)雪降る音の向こうに母がいるような気がした。私が希求する何かがあるような気がした。認識をもので捉えてゆくことが大きな課題だ。どう表現してゆくかが大きな課題だ。ここでたまった言葉をすべて空っぽにして、また一から出発したい。
と現在の思いを述べている。本集における井越芳子は、水の作家である。夥しい水にかかわる句がある。それはどれも、たぶん彼女の投影であろう。ともあれ、以下にいくつかの句を挙げておきたい。
白南風や水より上がりくる一騎 芳子
秋の暮水のやうなる街見えて
冬晴れの水の上を水流れけり
水中の音に隔たり雪降りだす
戸口より真昼の見ゆる落花かな
蜻蛉のときどき水をさはりけり
銀杏散る水中半ばより昏く
水の面に降り込んでゆく花の影
母の音どこにもあらず月の家
日輪を貼りつけにしてふぶきけり
国のはじめのきさらぎの水の音
水見えて水の音なき桜かな
天魚ふふめば夜はもう一度やつてくる
生まれてこなかつた子供花の中
すかんぽや日の中心は草の上
井越芳子(いごし・よしこ) 1958年、東京生まれ。
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