2020年6月11日木曜日

暮尾淳「長兄の蝶ネクタイの遺影かな」(「鬣」第75号)・・



 「鬣」第75号(鬣の会)、いつもながら、スミからスミまで、読みどころ満載の雑誌である。今号の特集の一つは、第18回鬣TATEGAMI俳句賞三冊、川本皓嗣『俳諧の詩学ー「新切字論」』の評は林桂、『藤原月彦全句集』評は中里夏彦、『寺田京子全句集』評は佐藤清美。もう一つの特集は「追悼・暮尾淳」である。転載コラム「俳句史遺産⑥」も貴重なコーナーで、今号は吉岡禅寺洞「『天の川』掲載多行形式作品」と寺田澄史編「折笠美秋・俳句評論・著書総目録ー増補版ー」。エッセイは樽見博「セロニアス・、モンク」、神保喜利彦「コンビのあとさき3」、青木陽介「蝶」。その「セロニアス・モンク」のなかに、

(前略)そんな折、岡崎武志さんから『明日咲く言葉の種をまこうー心を耕す名言100』(春陽堂書店)を頂いた。その名言の中にモンクの「オレたちは知ることで自由に、そして自分自身になっていくんだよ」という息子に語った言葉があった。モンクの指輪には「MONK」と彫ってあったが、逆から読むと「KNOW」(知る)になるという逸話も紹介されている。

 という。ともあれ、同誌同号より、できる限り、句を挙げておきたい。

   船はゆく龍飼う森家の春である      佐藤清美
   縄跳びを抜けて一人は昼の影      水野真由美
  
   中野雨脚
   押し入れにビニール傘
   なんて                 外山一機
   
   風太郎
   雪穴いくつ
   記憶に
   埋め                  上田 玄

   おぼろ夜の納骨前の骨が鳴る       堀越胡流
   みずみずしき建国の日のドラム缶     大橋弘典
   眠り目覚め眠り目覚めぬ春の父     永井貴美子
   なごり雪猫の小さな喉仏         青木澄江
   北国や木馬のすべて海を向く     吉野わとそん
   花菜雨もうお会ひすることはない     堀込 学 
   組み直す玩具の螺子の余りたる      西平信義
   鉛筆の芯を削りて去年今年        九里順子
   なか空に櫂の音して春の暮        佐藤裕子
   鈴なりに埴輪の馬にハリボラス      樽見 博
   春陰や閉院告知と視力表          蕁 麻

   (みみ)の奥(おく)
               石棺(せきくわん)
   (そび)
   (ひ)やされて            中里夏彦

   残像の
   夕日の
   燕
   流刑地へ                深代 響

   わが灰が降る或る朝の北窓よ       後藤貴子
   上州木枯らし一月の目に涙        丸山 功 
   パンの耳だけ残る朝の皿       西躰かずよし
   雪の下で水の音がしているよ    伊藤シンノスケ
   経済に竜がいて直下降          永井一時
   
   天下御免の流れ者、
   羽夷流素(ういるす)てぇんだ。頼まぁ   林 稜

   喉許(のどもと)
   覗(のぞ)
   野薊(のあざみ)
   野萱草(のかんざう)           林 桂



     芽夢野うのき「ほたるぶくろその花ふたつくれないか」

0 件のコメント:

コメントを投稿