「儒艮」VOL.32(儒艮の会)、久保純夫は相変わらずの多作ぶりだ。さすがに、回想録が書けるだけの年齢に達してしまった、ということでもある。いわば、久保純夫自伝なのだが、その連載も今号は「『回想録』(五)--『獣園』終刊まで」で、愚生の忘れていたことなどを思い起させてくれた。中でも、愚生と関係の深いところを、抄出したい。
(前略)昭和四八年に大学を卒業。小さな広告代理店に勤務したが、三ヶ月で退職。教職を目指すことに。(中略)
一五号では五周年記念号を出し、一八号では城喜代美句集『曼荼羅繚乱』の特集を行っているが、その一八号で終わってしまった。この時期、同人達に、俳句を書くことができない状況がそれぞれに訪れていた。その結果、発行を持続することができなくなってしまった。(中略)一九号では大井恒行句集『秋ノ詩』が特集されるはずであった。真っ黒の紙に墨で五〇句書かれている。自筆限定五〇部の句集である。攝津幸彦さんからはその句集評を戴いていた。それもいつか散佚してしまった。慚愧に堪えない。おふたりには、本当に申し訳ないことをしてしまった。
少し書き抜いて置く。
夢よ熟せば秋の柱の夜ごとに哭かむ 大井恒行
水鳥ノ水ヨリ残ル水ノ日々
猫族ノ猫目ノ銀ヲ懐胎ス
木ノ中ノ男ヨ死ヌル花ヲ恥ジ
(中略)
あれは二十歳の花衰の薔薇や博物誌
冬野来て未決の白い首絞める
恍惚として銀河船出を急ぐかな
(中略)
この中の「あれは二十歳の花衰の薔薇や博物誌」という句は、『瑠璃薔薇館』に贈答して戴いたものだ。
『瑠璃薔薇館』は久保純夫(当時は、純を)の第一句集だ。もう五十年近く昔のことだ。思えば遠く来たものだ・・・。ともあれ、本号より、以下に一人一句を挙げておこう。
パンデミックの真ん中に立つ葱坊主 久保純夫
学僧の汗にまみれしバリケード 曾根 毅
金魚玉直下液状化現象 嵯峨根鈴子
もう醒めぬ父よ春野に遊ばむか 岸本由香
水くらげ腸まで透けて漂いぬ 上森敦代
えり舟の小春の波の陰と陽 志村宣子
行間に沈んだままの紙魚の息 木村オサム
卒業歌手拍子少しづつずれし 伊藤蕃果
防弾チョッキきつさうパンジーねむたさう 近江満里子
あちこちに笑顔のかたち豆の花 久保 彩
みづうみの水のにほへる草苺 金山桜子
口漱ぐ八月は父の月なり復員す 妹尾 健
縫代は永遠に内側さみだるる 藤井なお子
余計なことかも知れないが、妹尾健の略歴の紹介は、生年、出身地を除いて、正確ではない。「草苑」同人とあるが、「草苑」は「草樹」に継承され、現在は存在しない雑誌である。現在では、一年に一度しか刊行されていないが、妹尾健は立派に「豈」同人である。
芽夢野うのき「のうぜんに青い風あきらめるなよ」↑
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