2021年8月29日日曜日

若井新一「天日へすべて捧ぐる曼珠沙華」(『風雪』)・・・


 若井新一第5句集『風雪』(角川書店)、平成25年から令和2年の8年間の388句を収める。著者「あとがき」に、


 (前略)新潟の豪雪地帯に生まれ、会社勤めの傍ら農業をやり、ここで一生を終わるというのは、偶然にして不思議だ。様々なことがあったが、俳句という文芸に巡り合い、生きた証を残せるのはとても幸せである。古希もとうに過ぎ人生の儚さを思うが、農業と俳句に定年はない。今後も元気のうちは鍬の柄を握り、草刈機を背負い、自然界と睦あってゆきたい。


 と記している。そして、帯の惹句には、


 残雪の嶺より高く鍬の先

農に生き、句作をたましいの糧とする。

足裏を耕土の奥へ踏み込み、豪雪の地での、

生と死を明滅させる。


ともあった。また、集名に因む句は、


  風雪の隧道の口消えにけり     新一


であろう。ともあれ、愚生好みになるが、集中よりいくつかの句を挙げておきたい。


  うぶすなの土俵を隠す花吹雪

    悼 本宮哲郎氏

  寒月へ本宮哲郎発ちにけり

  霾やいづこへ抜くる土竜みち

  凍るまじ凍るまじ水流れゆき

  紅梅のひしと寄り添ふ龍太の忌

  いつの世の星と別れし螢かな

  雪食ふや喉乾きたる屋根の上

  マルクスの豊かな髭や書を曝す

    志城 柏(目崎徳衛先生の俳号)

  雪嶺やいよよ高きに志城柏

  かたかごの花にも追はれ心かな

  泥のほか見ざるひと日や代を掻く

  引き返す波のなかりき青田波

  新雪を乳房に当つる雪女

  広島忌熱砂の上を土踏まず

  いくたびも人影を消す花ふぶき

  

若井新一(わかい・しんいち) 昭和22年、新潟県魚沼市生まれ。



         芽夢野うのき「青柿の青に宿るや老少女」↑

0 件のコメント:

コメントを投稿