2021年8月3日火曜日

森さかえ「かたつむりどこへ行つても雨になる」(『木星は遠すぎる』)・・・

 


  森さかえ第三句集『木星は遠すぎる』(文學の森)、装画と各扉の挿画は著者。構成は春夏秋冬だが、ぞれぞれの章題は「春や春」「どこへ行つても雨」「立ち止まる時間」「夢目のひとひら」と付されている。著者「あとがき」の中に、


(前略)『夏のつづき』を出してから十年が過ぎた。その間に作った俳句を整理する必要を感じていたので、思い切って句集としてまとめることにした。

 芭蕉ではないが、夏炉冬扇のように、何の役にも立たない私の句だが、少しでも面白がってくれる人がいればと思う。


と結ばれている。集名に因む句は、


   木星は遠くて冬がきてしまふ     さかえ


であろう。ともあれ、集中より、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておきたい。


   春の昼からだを留守にしてゐます

   あかさたなはまやらわつと春一番

   逃水や擬態のうまい姉である

   春の海指を入れればちゆんといふ

   おれおれといひつつ椿おちてゐる

   襤褸とは花の散りしく時代かな

   舌の根の乾かぬやうに水を打ち

   穴惑ひずつと死なないきがします

   かなかなや半減期まではゐるつもり

   地図にない街ありことに黄落す

   行列にならぶもうすぐ春ですね

   そのうちに死にますなあと日向ぼこ

   返り花死に放題の日となりぬ

   七草やどこ吹く風の吹いてをり

   総立ちの枯木ぼうだちの人民

   

森さかえ(もり・さかえ) 1949年生まれ。



         鈴木純一「着衣のマハ/裸のマハ/死せるマハ」↑

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