2020年7月24日金曜日

石倉夏生「咲いて無人散つて無人の桜かな」(「地祷圏」第83号)・・




  季刊俳句同人誌「地祷圏」(発行 石倉夏生・編集 中井洋子)、愚生は、以前、生前の石田よし宏から恵送にあずかっていたように思うが、その配慮に何を報いるでもなく来てしまった。本誌面は各1ページの上段に各一名15句と下段にエッセイが配されている。エッセイの今号のテーマは「『気』の入った一句」、キーワード「気」の入った句と鑑賞のエッセイが付されている。各人の好みの俳人や句の傾向を知ることができて面白く読んだ。ともあれ、同誌同号より一人一句を挙げておきたい。

   にこにこくすくす福豆にはボーロ      武田美代
   にんげんが人間を呼ぶ酉の市       栃木喜美子
   桜ではない木も桜になつてゐる       中井洋子
   わが髪の吹かれて尖る枯野かな       中村克子
   手術後の友と手と手の花の坂        中村典子
   春愁しつかり遊べと言はれても       永山華中
   たがやして寝言言ふ土さましつつ      早川 激 
   万緑に噎せティファニ-の箱渡す      本間睦美
   消印はダムになる村鳥帰る         水口圭子
   百三歳の福島菊枝弥生葬          水野信一
   小窓から春の無限が見えてをり      村上真理子
   花の雲手帳の中の親若し          矢野洋一
   末黒野となり渡良瀬の浄土めく       山口富雄
   言霊を垂らす巨木の糸桜          石倉夏生
   春寒しパンデミックの海が鳴る      石谷かずよ
   陽も声も反射しており蕗の薹        牛丸幸彦
   耳鳴りを揺さぶゆつてゐる桜東風      大嶋邦子
   マンモスの遠き咆哮冬銀河         大竹照子
   水音にかたむく心花の昼        大豆生田伴子
   ひと色の何か足りない春の虹        小川鶴枝
   桜蘂降る休校の通学路           軽部榮子
   永き日やコーヒーカップ回す癖      小林たけし
   どくだみといたづら匂ふ庭の闇       斎藤絢子
   ももいろを転がしてくる春一番       白井正枝
   風船は泣く子の涙そつと拭き        白土昌夫
   断崖は今もモノクロ沖縄忌         関口ミツ
   コロナ禍は夢にあらずや昼寝覚      早乙女知宏



          芽夢野うのき「かたまりを昔と思う芋の露」↑

3 件のコメント:

  1. はじめまして。いつも勉強させて頂いております。
    先生が現代俳句新人賞の選考委員をされていた時に、確か「365日が終戦日の僕ら」というタイトルだったと思うのですが、若い方の作品で、とても鮮烈で受賞させたが、既発表句が混ざっていたために辞退され残念だったというエピソードを目にしたことがあります。
    読んでみたいと思い、また書いたのはどなたか。
    非常に気になり調べてみたのですが、分かりませんでした。
    お忙しい所まことに恐縮ですが作者名を覚えておいででしたら、教えて頂けないでしょうか?
    大先生に対して恐れ多いことではありますしお手数おかけして申し訳ないのですが、何卒宜しくお願い致します。

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  2. お便り拝受。当時の「現代俳句」第32回選考評の愚生のデータに残っていた句を以下に記しておきます。その他、まったく手元にありません。現代俳句協会事務方に、残っているかもしれませんので、そちらのお尋ね下されば、幸甚です。

     手負いのいわし雲が窓から入ってきた  木下竣介
     暴力の優しい気配がしてなめくじ     〃
     鹿の国ダウンロードはしつこくした    〃
     
    とり急ぎ・・・大井拝

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    1. 丁寧にありがとうございます。
      大先生に対して恐れ多いことでした。

      事務方に問い合わせてみます。
      お忙しい所まことにありがとうございます。

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