2020年7月15日水曜日

中西夕紀「蘆の中蘆笛鳴らせ無為鳴らせ」(『くれなゐ』)・・・



 中西夕紀第4句集『くれなゐ』(本阿弥書店)、著者「あとがき」には、

 「都市」を始めて十年が過ぎ、第三句集『朝涼』を出してから九年が過ぎました。この句集は平成二十三年秋から令和元年暮れまでの作品を納めました。自分なりですが、句材を広げ、色々な詠い方を試みました。特に吟行では、小さなものたちの命を描きたいと思い、旅吟では、その土地への思いえお下敷きにして風景を描きたいと思いました。そして漢字一字の詠み込み題詠では、自在な発想で切れ味の良い句を作りたいと願いました。

 とあった。そして、集名に因む句は、巻尾の、

  日の没りし後のくれなゐ冬の山     夕紀

 であろう。愚性にとっては、集中の大庭紫蓬の名は、ことに忘れ難い、そして「終戦日」の句が2句あるが、「敗戦日」ならば、文句なくいただいていただろう。惜しまれる。ともあれ、集中より、印象深い、いくつかの句を以下に挙げておきたい。

    魚目先生は
  葉書より老の胆力白木槿
  つばくろや飛白の空の残されて
  金魚屋の猫の名前の悪太郎
    母は六十九歳で病死
  しみじみと手を見て死にき枇杷の花
  笑みこぼすやうに氷の雪吹かる
  もう誰のピアノでもなし薔薇の家
    大庭紫蓬さんを高知に見舞ふ
  和む目と鬢の白さや春の山
    悼 大庭紫蓬さん
  噎せ返る百合の小路を残さるる
    魚目先生から毛筆の葉書
  読めるまで眺むる葉書雪あかり
    悼 宇佐美魚目先生
  邯鄲や墨書千年ながらへむ
  万歳をしてをり陽炎の中に
    魚目先生の思ひ出
  逢はぬ間に逢へなくなりぬ桐の花
  マスクして神官いよよ白づくめ

 中西夕紀(なかにし・ゆき) 昭和28年、東京生まれ。



   芽夢野うのき「おしろい花の湧く道ふりむけばマリア」↑

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