2020年8月1日土曜日

伊藤敬子「徒歩ゆくや千艸の風に裾吹かれ」(『千艸』)・・




 伊藤敬子第18句集にして遺句集『千艸(ちぐさ)』(角川書店)、「著者は令和二年六月五日、逝去されました」(編集部)とあった。著者「あとがき」もすべて整っていたらしく、伊藤敬子の訃を知らなければ、遺句集とは思わなかっただろう。昭和10年生まれ、とある。享年85。その「あとがき」に、

 令和という時代を迎えましたが、このところ離別の思い深く、因縁を感じます。本句集は『年魚市潟』より三年間の作品を、四季別に分類しました。そして、四季の花々に心を寄せて過してきましたので、題名を『千艸』といたしました。

とある。その題名に因む句は、 

  徒歩ゆくや千艸の風に裾吹かれ     敬子
  花弁張る千艸に今宵癒さるる
  いちにちのたちまち遠き千艸かな
  しなやかに鐘の音あり千艸和す

などであろう。また、伊藤敬子は、俳誌「笹」の主宰だった。従って、笹に因む句も数々ある。

  笹の葉の姿ととのふ雪間かな
  笹原の風香ぐはしき初燕
  春めくや裏山の笹ひるがへり
  花はめぐる誌齢四百五十号の笹
     「笹」三十八周年
  笹の葉の青さまさりて五月来ぬ
     「笹」三十九周年
  吹く風やみどりの笹の幸頒つ
  四十年閲せし笹のみどり濃し
  団欒の灯のひたこぼれ笹の夏
  淡々と意志つらぬけり笹みどり
  笹原に初鶯の珠こぼれ

 ほかに、愚生好みの、句を以下にいくつか挙げておこう。ご冥福を祈る。合掌。

  下萌を踏むかなしさをなしとせず
  花の山忘れしことをまた忘れ
  みよしのへみ雪の見舞したためむ
  年立つやまづ水を汲み火を使ふ
  活け花に山河の滴初座敷
  冬雲の走りの迅き久女の忌

 伊藤敬子(いとう・けいこ)昭和10年愛知県生まれ、本年6月5日死去。


         撮影・鈴木純一「酔芙蓉母は鬼にも佛にも」↑

0 件のコメント:

コメントを投稿