平岡直子川柳句集『Ladies and』(左右社)、その帯の惹句に、
白鳥のように流血しています
わたしにとって、
男性社会にチェックインする
という手続きを踏まずに
使える言葉の置き場がひとつだけある。
それが現代川柳であるー
異才の歌人として知られる
著者の傑作句集が、ここに誕生。
とあった。栞文は榊陽子「平岡直子の変」、なかはられいこ「笑いながら、海へ」。その榊陽子は、
(前略)平岡さんの句を見てみると、〈白鳥のように流血しています〉の景と言葉のズレによる美しい仕打ち、〈償いのような長さのパスワード〉の救いようのない現実への無力感、と、かなりの割合で成功している。
と記し、なかはられいこは、
Ladies and どうして gentleman
句集のタイトルになった一句だ。Ladies and の「ど」からしりとりのように「どうして」がこぼれ出る。それが音になった瞬間、「どうして」がはじめて世界に現出するのだ。意識下にあったざらっとした感触がぷくっと浮かび上がる。分断されたgentlemanを宙づりにしたままで。一句をあらかじめ決まった場所に着地させないこと。異和を異和として持ち続けること。そのために「どうして」を編みこんで平岡の川柳は読者に手渡される。
と記している。また、著者「あとがき」には、
わたしが川柳について知っているのは、川柳とはじぶんの主人をあきらかにせず発話できる唯一の詩形だということだ。ここは「どんな言い方をしてもいい」と許されている場所だ。
川柳はさまざまな誤解に晒されているが、歌人として川柳に出会い、驚き、夢中になったわたしには、川柳がときどきどうしても短歌の美しい死骸に見える。短歌から〈私〉を差し引いて詩情だけを残したような、そういう夢のようなものにみえてしまう。
とあった。ともあれ、門外漢の愚生には、よくは分からないながら、好みだと思えた句をいくつか挙げておこう。
鬼だとは知らずに握らされていた
月蝕のような美貌が欠けている
ライオンを常温保存する危険
右胸のあなたが放火したあたり
息を吹きかけてもほほえまない卵
すぐ来て、と水道水が呼んでいる
廃墟ではつい笑いだす歯を叱る
夏服はほとんど海だからおいで
心ではいつも砂糖を舐めている
星条旗専用空気清浄機
延長コードの範囲であれば初詣
蒟蒻に誘い文句が書いてある
次の戦車をお待ちください
火葬場だものすぐに乾くわ
耳のなか暗いねこれはお祝いね
平岡直子(ひらおか・なおこ) 1984年、神奈川県生まれ、長野県育ち。
撮影・芽夢野うのき「あれも紫陽花これもアジサイみなアリバイ」↑
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