小池正博編著『はじめまして現代川柳』(書肆侃侃房)、「はじめに/現代川柳とは何か?」で、
(前略)「現代川柳」には「現代の川柳」とは異なったニュアンスがある。一九七〇年前後、「現代川柳」は「革新川柳」「前衛川柳」という意味で川柳界では受け止められていた。「伝統川柳」と「現代川柳」という対立軸があったのだ。現在では伝統と革新ということはあまり言われなくなったが、伝統であれ革新であれ、文芸としての川柳を志向する作品を「現代川柳」と呼んでおこう。(中略)
本書には現代川柳の作者、三十五人の作品を収録している。全体を四章に分け、第一章と第二章には現代川柳を牽引してきた作者の作品を収録。第三章には現代川柳の源流としての新興川柳と戦後川柳の作者を、第四章には次世代の活躍が期待される作者を収録した。
とある。また、愚生のような門外漢には、簡略な現代川柳の概説ともいうべき第五章「現代川柳小史」が巻末にあるのは嬉しい。その部分に、
現在、川柳のフィールドでは様々な作品と川柳観がダイナミックに生れている。冨二・春三から時実新子までが現代川柳の第一世代だとすれば、本書の第一章・第二章に収録されている川柳人は第二世代・第三世代に属する(これは厳密な区分ではなくて、たとえば墨作二郎は第一世代に入る)。(中略)
句会だけで充足していた時代からテクストの「読みの時代」へ。さらに「句集の時代」へと進んできているし、「毎週WEB句会」の森山文切のように句会だけではなくSNSを通じて川柳を発信する作者も登場。現代川柳の今後が楽しみだ。
とある。また帯の惹句には、「川上日車、石部明から八上桐子、柳本々々まで35名の76句選」とある。ともあれ、アトランダムになるが、本書のなかより、いくつかの作品を挙げておこう。
病棟や父「撤収ッ」を連呼せり 石田柊馬
銀河から戻る廊下が濡れている 加藤久子
正確に立つと私は曲っている 佐藤みさ子
鶴を折るひとりひとりを処刑する 墨作二郎
愛人もインフルエンザもアポなしで 浪越靖政
脱ぐときの妻は横目で僕は伏目 渡辺隆夫
兄ちゃんが盗んだ僕も手伝った くんじろう
処刑場みんなにこにこしているね 小池正博
相似形だから荒縄で縛るよ 清水かおり
どうしても椅子が足りないのだ諸君 筒井祥文
ビル、がく、ずれて、ゆくな、ん、てきれ、いき、れ なかはられいこ
人体にある凸凹を美女という 野沢省吾
風立ちてインドのかたちして眠る 畑 美樹
あの世からこの世へやってきてドボン 松永千秋
鶴は折りたたまれて一輪挿しに 飯島章友
中八がそんなに憎いかさあ殺せ 川合大祐
いけにえにフリルがあって恥ずかしい 暮田真名
たてがみが生えてきたので抜いている 榊 陽子
美しい鍵だ使えば戻れない 竹井紫乙
手のひらのえさも手のひらもあげる 芳賀博子
すりがらす自己紹介をせがまれる 兵頭全郎
チャンネルを替えると無口になった 湊 圭史
水を 夜をうすめる水をください 八上桐子
した人もしてない人もバスに乗る 柳本々々
二週間経ったら思慕は意味になる 樋口由紀子
小池正博(こいけ・まさひろ)1954年、大阪府生まれ。
芽夢野うのき「さしはなつエンゼル冬野で鬼となる」↑
0 件のコメント:
コメントを投稿