2014年3月25日火曜日
宗田安正選「平成百人一句」・・・
百人一句選となると、古今さまざまな百人一句がある。
それが、個人選であれば、選者の個性も出てくる面白さがある。また復数による百人一句でも、妥協の産物とはいえ、選んだ人たちのそれなりの考え方や個性が出る。誰を選んだか、どのような句を選んだかは、じつに興味深い。かつて、愚生がもっとも魅せられていたのは塚本邦雄選だった。ほかには、アサヒグラフであったか、趣向が少し変わるが、中井英夫による幻想俳句百選や山本健吉の昭和俳句百句などもあった。
平成時代もすでに四半世紀、みごとな百人一句のアンソロジーができて、古典となるべき作品が紡ぎだされてもいいころだ。
平成時代に入ってからに限って、平成百人一句の最初の選と鑑賞文が世に送られたのは、「俳句空間」(弘栄堂書店版)だったと思う。平成に入って、わずかに二年間。そのわずかな期間ではあるが、活躍中であった最年少は今泉康弘(当時23歳)から、最年長は阿波野青畝(当時91歳)までの百人一句鑑賞であった。多くの方々が今は鬼籍に入っていることを思うとあまりに早い時代の流れと自らの老いを思わないわけにはいかない。
この企画は、各俳人に平成2年間に創った俳句作品の中から、自信作5句を送稿していただき(句集や掲載誌の掲載年月を付して)、それを編集部で一句選び、その一句について各鑑賞文を他の俳人に書いてもらうというものだった。つまり、捨て去られた四句の自信作は、これまで、ついに陽の目をみることはなかったのだ。
あまりにもったいないことに気付き、現在、愚生はぼちぼちと「平成百人一句鑑賞にまつわるあれこれ」と題してブログ「俳句空間ー戦後俳句を読む」に一ヶ月に一度くらいのペースで当時の自筆原稿をもとに、掲載されなかった他の句を掘り起こし、連載している。
ほかに平成百人一句を企画し「2000年百人一句」展(選者・夏石番矢)として自筆色紙などともに開催展示したのは、土屋文明記念館、日本現代詩歌文学館、熊本近代文学館であった。
そして、今回、宗田安正が「アナホリッシュ國文學」第5号で百人一句選を披露している。宗田安正の「選後所感」によると「四半世紀に達した平成年間の作品を対象に何かを表現しようとしている作品を中心に選んだ」としてあるものの、どうやら、最初から作品のみを対象にすることによって選ばれたのではなく、どうも作者を選んでから、平成時代に作られた作品を選び配するという構造になっているのが少し惜しまれる。宗田安正の好みと基準であるから、文句を言うほうが筋違いで、止むを得ないことなのかも知れない。ただ、そのなかでもさすがに宗田安正でなければ出てこない百人のうちの何人かがいるのは得がたい救いである。その中で愚生のに目に入った幾人かの俳人と作品を挙げて、宗田安正の労に報いたい。
艦といふ大きな棺(ひつぎ)沖縄忌 文挟夫佐恵
全身を液体として泳ぎけり 和田悟朗
死者あまた卯波より現れ上陸す 眞鍋呉夫
在りて遥かな〈古代緑地〉へ白鳥は発つ 坂戸淳夫
閃光を見たる閃塔蝉時雨 大林信爾
万物は去りゆけどまた青物屋 安井浩司
明日は野に遊ぶ母から鼠落つ 志賀 康
肉屋に肉入れるところや夏の月 谷口慎也
前衛に甘草の目のひとならび 攝津幸彦
たくさんの舌が馬食う村祭 西川徹郎
ずずずずと鯨の浮力で目がさめる 江里昭彦
尾の見えてすめらみことの更衣 高橋修宏
八月の橋を描く子に水渡す 水野真由美
万両は幻影に色をつけた実か 四ツ谷龍
断崖に開けつぱなしの冷蔵庫 皆吉 司
コブシ↓
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