2015年2月7日土曜日

「鐵兜樹間にかむり鬱と立つ」敏雄(「朝」第四号終刊号)・・・11


                     「朝」4号↑
                
「朝」(昭和13年4月1日)は「第一巻・第四号 終刊号)と扉に記されている。そのお知らせの欄には「此の度、いろいろの都合上『朝』を『芭蕉館』と併合し朝同人は『芭蕉館同人』として勉強してゆきたいと存じます。尚詳細は追って他の形式で発表いたします。(編集部)」とある。

この号に三橋敏雄は「戦争」と題して三句を発表している。遠山陽子『評伝 三橋敏雄』によると「この三句は、のちに『風』七号に発表し、敏雄の出世作となった『戦争』五十七句に重複するものである」という。この三句を以下に挙げる。

        戦争                     三橋敏雄
   鐵兜樹間にかむり鬱と立つ         『弾道』所収
   河の天(そら)故に砲聲も流れ冷ゆ      〃     (「・・天・・」ルビなし)
   あを海へ煉瓦の壁が撃ちぬかれ

ちなみに「朝」第三号に三橋敏雄は「雪つのる展望」と題して5句発表しているのだが、現在のところ「朝」第三号(発行日は推測すると昭和13年3月1日)の原本は所在不明。「朝」第四号の小西兼尾による「朝第三号作品評」によってのみ三橋作品が特定されている。発表された5句の内3句は『太古』に「展望」と題されて収載されている。その5句を孫引きながら紹介しておこう。

         雪つのる展望                三橋敏雄
   機業地区ひゞきまひるの雪をふかむ    『太古』所収(「工場地區ひびき・・・)
   雪ふれど高臺のなき機業地区          〃    (・・・工場地區)
   煙突林まさしく雪はふりつもり
   一齋に雪の煙突これは黒し          『太古』所収
   ふる雪の斑は天(そら)に窓に満つ 

  ちなみに「朝第三号作品評」の小西兼尾は、

 この作家の勉強ぶりの凄まじいことは衆知の事実であつて、その結果が今日の彼の作品の強固さをもたらして来たことは否み難い。『鷹』誌上で青柚子君が用語の的確さを述べてゐられたが、、同時には構成の緻密、好ましき限りにおいての才気のひらめき等々々をあげることが出来る。そしてそれにも増して推さねばならぬことは彼の作句態度である。ひと度ある素材を発見するや実にしぶとく喰ひ下つて、いかにして素材の真骨頂を把握せんかと、らんらんと輝きを増す彼の眼である。平たく云へば、如何なる角度から眺めたら、どんな色彩を以てしたならば、いかなる文化面をその背後に装置したならば、いかなる技巧を用ひて表現したならば、その素材が厳として動かす可らざる天与の性格を完全に描写し得るか!といふ事に就いて彼自身の思考を全く一致する迄研究する真面目な態度である。
 彼、敏雄君の作品に於て甚だしき失敗作のないことはそれを證明して余りあるものである。

と絶賛に近い評を述べたのち、各個別の句にも筆を及ぼしている。三橋敏雄十七歳の若き日の姿が彷彿とする。


                    枯芭蕉↑

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