2015年4月29日水曜日

「いつのまに虹とよばれぬ巣に星ふる」(『冬野虹作品集成』)・・・



四ッ谷龍の謹呈紙にしたためられている。

 ポプラの葉は高い梢の輪転機かがやきながら活字打つ音    冬野 虹

十三年前に世を去った作家、冬野虹に遺珠をあつめて文芸作品集として刊行しました。お読みくだされば嬉しく存じます。
                   二〇一五年四月二五日   四ッ谷 龍

四ッ谷龍は冬野虹との二人誌「むしめがね」を出している。そこでは、冬野虹は絵も描いていた。確か四ッ谷龍の句集『慈愛』の装画もそうだった。俳句作品、エッセイ、そして四ッ谷龍は戦時の俳句を丹念に調べ、また、自由律俳句の中塚一碧樓の作品などを載せ、地味だが良い、大切な仕事をしていた。
このたびは、まったくの急逝だった彼女の遺稿を全三巻の大册にまとめた見事な一本である。版元の書肆山田から出版したいというのは虹の希望だったとあった。
愚生らは、これまで冬野虹句集『雪予報』のみに接することができていたのだが、これで、彼女の未完の句集『網目』、短歌作品、詩作品などの多くに接することが可能になった。

四ッ谷龍と冬野虹はいつも寄り添っていた。
愚生は、若き日に、いまやおぼろげににしか覚えていないが、インタビューを受けた記憶がある。
あるいは、また、神戸の街だったと思うが(愚生が西下した折り)、まこと偶然に、お二人に会い、そのまま元町でやられていた永田耕衣の句会に飛び入ったこともあった。

『冬野虹作品集成』(書肆山田)全三巻は、装幀・間村俊一、装画・冬野虹。編者は四ッ谷龍。栞は吉岡実・中西夏之(第一巻)、白石かずこ・高橋睦郎(第二巻)、永島靖子・野崎歓(第三巻)。

冬野虹は昭和18年1月1日大阪生まれ。鷹新人賞、61年鷹退会。平成14年2月11日急逝。享年59。
 
    初春の切手のジャンヌダルクかな           未完句集「網目」より
    よるべなき十字路なりし夏衣
    白牡丹わがしにがほの海に向く
    両の眼のひらかれてゆくまんじゅさげ
    しろすみれ原子炉の扉(と)に触るる指
    穴あきの靴下ならぶ神の旅
    まひまひや室内に陽が死んでゐる
    水澄んでトキさんといつも笑った  

  
      

2 件のコメント:

  1. さっそくご紹介いただき、ありがとうございます。大井さんとは、渋谷で座談会に参加していただいた時のこと、船団の会の帰りに永田耕衣氏にご紹介したこと、田中裕明の櫻姫譚出版祝いで新宿で飲んだことなど、さまざまな場面でご一緒させていただきましたね。ありありと当時を思い出します。

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  2. 有難うございました。記憶力の弱い僕の代わりに、その時が、そうだったのか、と改めて思い起こさせていただきました。

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