2018年9月8日土曜日
池田瑠那「葉桜や鋲に閉ぢたる検死創」(『金輪際』)・・
池田瑠那第一句集『金輪際』(ふらんす堂)、集名に因む句は、
花散るや金輪際のそこひまで 瑠那
である。著者「あとがき」には、
金輪とは仏教的宇宙観において、我々が住まう大地の奥底にある黄金の輪のこと、〈金輪際のそこひ〉とはその金輪の最下端、即ち世の果てを意味します。風にきらめき、降りしきる眼前の花びらは、必ずや遥かな世の果て、人智を超越した境地へも届くことだろうという思いで詠んだ句です。
とある。序文は小澤實、ブログタイトルに挙げた句「葉桜や鋲に閉ぢたる検死創」について、
正視することができないような場面だが、しっかりと見開いて描いている。亡夫の最後の像をしかと俳句に刻みきっている。それもこの場面でもあくまでも非情に「もの」としての描写に徹しているのに、威儀を正さざるをえない。
と述べられている。池田瑠那のこうした句のなかにあって意外に酒に関する句が多いのは、アルコールの佳き愛飲者だなと思い、それも楽しそうで微笑ましい。
立飲に麦酒干したり明日も佳き日
注ぎくれてギネス麦酒や泡みつしり
ビアグラスGUINNESSの文字の白映ゆる
白耳義(ベルギー)麦酒壜底酵母の層
月光や火酒熱しゆく樽の内
カルヴァドスかをり深きを寝酒とす
万緑や球場に酌みハイボール
祭酒アルミのマグに注ぎ呉るる
随分以前のことになるが、池田瑠那と愚生は一度だけ、筑紫磐井が興行した「題詠句会」で句座を共にしたことがあるように思う(記憶違いであったら許されよ)。どんな句を選び、どんな句を出したかさえも忘れてしまったが、あらかじめ、筑紫磐井の用意した台本があって、虚子や東洋城の役を振り当てられて句評を言うという趣向で、なかなか有意義な句会だったように思う。
ともあれ、集中より、いくつか愚生好みの句を挙げておこう。
夕焼より戦地はとほしモバイル閉づ
春月にししむらの色ありにけり
葉桜に振れて放射能測定器(ガイガーカウンター)
ごきぶりの死してむらさきびかりかな
刻々水漬く地球にわれら暑くをり
ドリルに解(ばら)す選挙看板草いきれ
池田瑠那(いけだ・るな) 1976(昭和51)年生まれ。
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