野中亮介第二句集『つむぎうた』(ふらんす堂)、ある意味で待望久しい句集かも知れない。「あとがき」に、
(前略)そんな私を寝かしつけるのに決まって母が、「がじゅまるさん、がじゅまるさん、つきがでました、まんまるな、おひげのばしてきょうもまた、よいこのゆめにいきましょう」と唄ってくれました。後でこれは台湾に多い「がじゅまるの樹」を詠ったもので、織を教えてくださった台湾のお婆さんが口ずさんでいた紡ぎ唄だと母から聞きました。この唄にはまだ続きがあったように思いますが、(中略)句集名を考えてた折、自然とこの唄が思い浮かびそのまま名付けることに致しました。(中略)
今、私は福岡で「花鶏」という小さな結社を作り身ほとりの仲間と句会をする幸せに恵まれておりますが、仲間には野に出て、実際、呼吸している季語に触れるように常々勧めています。季語は歳時記にあるのではなく、自然の中にこそ息づいているのだと。そして、その声を実感することで何倍にも人生が豊かに幸せに感じられるようになるのだと。
と記している。ともあれ、集中より、愚生好みに偏するがいくつかの句を挙げておこう。
山出づる真水のこゑや初硯 亮介
雪礫雪ちらかして月のぼる
登り窯火を噴かぬ日の蟻地獄
天仰ぐ撃たれし兵も冬の木も
悼 林翔先生
喪心の定まつてきし葛湯かな
銃眼を塞ぎにかかる蜘蛛の糸
清明や四恩足りたる鳥のこゑ
母のほか汗して母の柩出す
悼 伊藤通明先生
鬼胡桃てのひらにもう脈打たず
雁や北の擦れたる羅針盤
父が箸取ればみなとる青簾
釘抜いて板に戻りぬ十二月
風船の子に飽きられてより萎む
綿虫や遠弟子として生きて来し
野中亮介(のなか・りょうすけ) 1958年、福岡県生まれ。
芽夢野うのき「炭坑節踊る百歳けいとう花」↑
俳人協会賞を受賞ですね!!近来にない本格的な句集と思っていました。九州にいらっしゃるのに凄い!!
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