藤本美和子第3句集『冬泉』(角川書店)、帯の惹句は高橋睦郎、それには、
どこまでも淡彩の平叙の中にふと顕つ異変、/それが美和子句の詩であり俳。/その微妙に驚くには、読句宜しく/ 平常心でなければなるまい。
とある。また、著者「あとがき」には、集名の由来について、
先生のこゑよくとほる冬泉
の一句に拠った。
二〇一五年一月十日、師の綾部仁喜先生が亡くなった。気道切開により声を失った先生の十一年近い歳月が終わりを迎えた瞬間であった。亡骸となった先生との対面が叶ったとき、そこには呼吸器かあ開放された先生の安らかな顔があった。そしていつものおだやかな声がはっきりと聞こえたように思えたのだった。
と記されている。そしてまた、
波郷の師系に連なるひとりとして「打坐即刻のうた」、今のわれを詠み続けてゆきたい。
と述べている。ともあれ、集中より、いくつかの句を以下に挙げておこう。
さざなみのゆきわたりたる氷消ゆ 美和子
水影の火影の鵜縄捌きかな
鳥籠の向かうがはなる冬景色
あぎさゐの縁のいろ濃き塗香かな
潮鳴りをかたへに後の更衣
野遊びの膳のひとつに潮汁
くだら野や胸も頭も紅き鳥
愛日といふ言の葉を胸の奥
ぼろ市の鏡やとほきくにの空
枯れ極むとは一草の髄のいろ
籜(たけのかは)富田木歩の終焉地
炎天のかげりきたれる辻回し
列島の灯を落としたる蝌蚪の紐
藤本美和子(ふじもと・みわこ) 1950年、和歌山県生まれ。
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