瀬戸正洋第6句集『亀の失踪』(新潮社図書編集室)、跋文と思しき寄稿に、富樫鉄火「ま、このっとおりです」、解説に川村蘭太「いま、なぜ瀬戸正洋なのか」。著者「後記」には、
何もすることがないので俳句を作っている。
俳句を作っている理由を聞かれてもわからない。
もちろん、生きている理由など何もわからない。
朝、目が覚めるとということだけのことである。
これからは、人に係わることなく生きていけたらと思う。
とあった。富樫鉄火の寄稿には、その結びに、
(前略)ところが瀬戸さんは、自句自解を、いっさい、しない。半分照れたような表情で、ニコニコしながら「ま、このとおりです」と言うだけだ。この「ま、このとおりです」が出るたびに、誰もがクスッと笑う。(中略)
そんな瀬戸さんが、第六句集をまとめられた。三〇〇句が収録されている。もちろん、どれも「瀬戸ワールド」ならではの、独特なコトバのオン・パレードである。ただし、あまりあれこれと、句の背景を探らないほうがいい。だってご本人に「ま、このとおりです」と言われるだけだから。
俳句とは、それでいいと思う。
とある。さすがに解説の川村蘭太はその背景を述べようとする。冒頭近くには、瀬戸正洋「他人になりたくてなりたくて海鼠」の句を挙げて、句に潜んでいるストーリーを展開しているのだが、それでも、その解説の結びには、
さあ、私がいままで書き流してきたことも、スッキリと水に流し、あなた自身の、あなただけのストーリーを、正洋俳句から発見してください。
うしろのしょうめんだあれ?
という塩梅であった。何しろ海鼠の句では、橋閒石に「階段が無くて海鼠の日暮かな」があるので、これに対抗できるストーリーは、けっこう難しい、と思われる。ともあれ、愚生好みに偏するが、集中より、いくつかの句を挙げておきたい。
烏瓜だんだん昏くだんだん暗く 正洋
足もと寒し映画館を出ても寒し
三伏や裸眼で見えるものを見る
威されて威して威銃とカラス
鬼ごつこうしろの正面ひとだらけ
おとなの事情こどもの事情夏はじめ
高圧洗浄かける卯の花腐しかな
福引や老々時代のどまんなか
瀬戸正洋(せと・せいよう) 1954年生まれ。
撮影・鈴木純一「義務ならば国勢調査黒く塗る」↑
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