2020年9月28日月曜日

瀬戸正洋「シビリアンコントロール亀鳴きにけり」(『亀の失踪』)・・・



  瀬戸正洋第6句集『亀の失踪』(新潮社図書編集室)、跋文と思しき寄稿に、富樫鉄火「ま、このっとおりです」、解説に川村蘭太「いま、なぜ瀬戸正洋なのか」。著者「後記」には、


  何もすることがないので俳句を作っている。

  俳句を作っている理由を聞かれてもわからない。

  もちろん、生きている理由など何もわからない。

  朝、目が覚めるとということだけのことである。

  これからは、人に係わることなく生きていけたらと思う。


 とあった。富樫鉄火の寄稿には、その結びに、


 (前略)ところが瀬戸さんは、自句自解を、いっさい、しない。半分照れたような表情で、ニコニコしながら「ま、このとおりです」と言うだけだ。この「ま、このとおりです」が出るたびに、誰もがクスッと笑う。(中略)

 そんな瀬戸さんが、第六句集をまとめられた。三〇〇句が収録されている。もちろん、どれも「瀬戸ワールド」ならではの、独特なコトバのオン・パレードである。ただし、あまりあれこれと、句の背景を探らないほうがいい。だってご本人に「ま、このとおりです」と言われるだけだから。

 俳句とは、それでいいと思う。


とある。さすがに解説の川村蘭太はその背景を述べようとする。冒頭近くには、瀬戸正洋「他人になりたくてなりたくて海鼠」の句を挙げて、句に潜んでいるストーリーを展開しているのだが、それでも、その解説の結びには、


 さあ、私がいままで書き流してきたことも、スッキリと水に流し、あなた自身の、あなただけのストーリーを、正洋俳句から発見してください。

  うしろのしょうめんだあれ?


 という塩梅であった。何しろ海鼠の句では、橋閒石に「階段が無くて海鼠の日暮かな」があるので、これに対抗できるストーリーは、けっこう難しい、と思われる。ともあれ、愚生好みに偏するが、集中より、いくつかの句を挙げておきたい。


   烏瓜だんだん昏くだんだん暗く      正洋

   足もと寒し映画館を出ても寒し

   三伏や裸眼で見えるものを見る

   威されて威して威銃とカラス

   鬼ごつこうしろの正面ひとだらけ

   おとなの事情こどもの事情夏はじめ

   高圧洗浄かける卯の花腐しかな

   福引や老々時代のどまんなか

   

  瀬戸正洋(せと・せいよう) 1954年生まれ。



          撮影・鈴木純一「義務ならば国勢調査黒く塗る」↑

0 件のコメント:

コメントを投稿