救仁郷由美子「安井浩司『自選句抄 友よ』の句を読む」(4)
ひるすぎの小屋を壊せばみなすすき 浩司
様々に語られてきた名句である。
掲句に対して、『友よ』のテーマに添って読むことにしよう。中句の「小屋を壊せば」であるが、存在していたものを壊し無くなることを、ひとつの死と捉え、その小屋の無い場所は、すすき野になって時は推移していく。このすすき野となる現象を再生のはじまりとし、ここでの、死と再生の語りが、ひるから夕への陽の光差し込むすすき野を語る美しい俳句を出現させる。
上句「ひるすぎ」もニーチェ・ツァラトゥストラの正后に繋げ、あらゆる可能性の時刻より、日没から明け方への再生の刻の始まりとする。己自らが創る俳句の、可能性の、新たなる旅。夜明けの時刻に歩み出す場所(トポス)が作者に現れた一句と言える。
旅人よみえたる二階の灰かぐら 浩司
「灰かぐら」が立つ二階の情景は、昭和三十年代頃までであろう。火鉢にたっぷりと入った灰の中で炭をおこし、その火の上に、鉄瓶などが置かれ湯を沸している。その湯が少しこぼれ、灰けむりが舞い上がる。その灰かむりを「灰かぐら」と言うのだが、疲れた旅人の立ち寄ろうと思う宿の二階の暖の光景となろう。「灰かぐら」に囲炉裏の火なども思い起こし、江戸のイメージまで繋げることの出来るノスタルジーの一句である。
ここで少し深読みをする。作者の書斎は二階にある。二階の書斎より、宗祇、芭蕉、古くは万葉まで、養分をたっぷり含み、火の残る灰、書物や俳諧が、読み直す度に異なった味わいをみせる俳句となったのであろう。
撮影・鈴木純一「大寒の席は上座の他になし」↑
0 件のコメント:
コメントを投稿