山本鬼之介第一句集『マネキン』(文學の森)、「鬼之介俳句の原点となった作品と講評」として、巻尾に「『俳句研究』昭和四十八年三月号」の「三橋敏雄推薦」評が掲載されている。その結びには、
マネキンを目白へ運び冬霞 山本飛鷺子(現・鬼之介) (中略)
要点は、「目白」という特定の土地柄を如何に感受するかにかかわろう。あるいは、土地柄について知らなくても、この固有名詞の文字面が誘う、複合的な情趣の不思議を手がかりにできるならば、マネキン人形とその運び手を媒体にして、かかるカスミの諧謔世界を味読し、共感してもらえようかと思う。
と記されている。また著者「あとがき」には、
マネキンを目白へ運び冬霞
昭和四十七年十二月某日朝、真新しいマネキン人形に遭遇したことが、以後今日まで、俳句と深く係わり合う切っ掛けとなった。
夢語り的な言い方になるが、俳句の神様がマネキンに身をやつし、その当時、身辺俳句からの脱却に悩んでいた自分に啓示を与えてくださったのではないかと思っている。(中略)
その後、兄山本紫黄の勧めで入会した「面の会」では、泳げない子供が海に放り込まれたように、元「断崖」同人の諸兄姉に交じってがむしゃらに俳句に取り組んだ。昭和四十年末から五十年前半にかけての「俳句研究」五十句競作への投句も財産となり、佳き思い出となった。
とある。ともあれ、以下に集中より、いくつかの句を挙げておきたい。
噴水を身軽な水は逃れけり 鬼之介
満月に石の象やら駱駝やら
忌心のあれど二月の軍艦旗
いつか終はらむ貨車の入れ替へ雲の峰
倒立の諸手が四五歩青き踏む
くろがねの匂ふ水こそかな女の忌
影武者もまた落武者よ山眠る
曲師いま泣かせの糸を霜の夜
薄氷の円盤投げをしてみるか
啓蟄の花屋にどつと異国の荷
里山や一番鶏も羽抜鳥
四次元へ行ける気がする大花野
洋装の「かな」に逢ひたや冬の湖
残雪や時よ遥かに赤軍派
文化の日吏員の誤解誤記誤読
亀も鳴くかと亀と歩調を合はせけり
日の本に乱いく度ぞ松落葉
瑞兆の五代の空よ水明忌
創作案山子まさに「田舎のプレスリー」
犬の日捲り二月三日はブルドッグ
山本鬼之介(やまもと・きのすけ) 昭和13年、東京都杉並区生まれ。
撮影・中西ひろ美「東京の端々までも初雪す」↑
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