1986年5月11日↑
脇田和展(鎌倉)別館新収蔵展に関根正二小品ほか。再見のH・マティス『ジャズ』に誘はれて帰途ⅠZAへ。
言葉を奪はれた独り歩きには、思ひのへめぐりのはげしさがある。こんな時には、C・パーカーにも癒されはしない。
鏡界にわが来る潮の淋しけれ 阿部鬼九男
*『黄山房日乗』へ35年後の剽窃譚・・・
撮影・芽夢野うのき「青葉冷えの露の卵の透きとおる」↑
1986年5月11日↑
脇田和展(鎌倉)別館新収蔵展に関根正二小品ほか。再見のH・マティス『ジャズ』に誘はれて帰途ⅠZAへ。
言葉を奪はれた独り歩きには、思ひのへめぐりのはげしさがある。こんな時には、C・パーカーにも癒されはしない。
鏡界にわが来る潮の淋しけれ 阿部鬼九男
*『黄山房日乗』へ35年後の剽窃譚・・・
撮影・芽夢野うのき「青葉冷えの露の卵の透きとおる」↑
岸本久美子『源氏物語 花筐(はながたみ)ー紫式部の歳時記を編む』(幻冬舎)、著者「前書き」の「現在(いま)物語としての源氏物語」の冒頭に、
若いころ、源氏物語の世界は遠いところにありました。登場人物は自分とは縁のない、いかにも古めかしい世界の人でした。高校三年生の時、古典の教科書に出ていた原文も、受験勉強のよすがに買った与謝野晶子訳の源氏物語も、大学での若菜の上巻の購読も、全然面白くない。しかもよくわからない。退屈した――。
とある。それでも、一度辞めた教職に、30歳で再びつき、源氏物語を教えるために読み直すと、これが「何とも面白」かったという。そして、京都に住んでいた著者は、源氏物語に描かれた四季折々の眼前にある風物を、
源氏物語の原文にも触れながら写真とともに紹介するブログは、二〇一七年の開設から約三年を経て百回を超えました。この本は、その中から五十八編を選んで編集しなおしたものです。
と記している。また、「後書に代えて—紫式部の耳」には、
源氏物語では、登場人物の心情はその感覚に訴える景物として響き合うように描かれています。叙景がとりもなおさず叙情として機能しているのです。
音は写真にはなりません。従って本文には載せなかったので、このページを借りてすこし紹介してみたいと思います。(中略)
もう一か所、夕霧が、思慕する落葉の宮を口説こうとしている場面。
風いと心細う、ふけゆく夜のけしき、虫の音も、鹿の鳴く音も滝の音も、ひとつに乱れて艶なるほどなれば、ただありのあはつけ人だに寝覚しぬべき空のけしきを、格子もさながら、入りかたの月の山の端近きほど、とどめがたうものあはれなり。 (夕霧の巻)
こちらは、恋物語の内の優なる男を演じようとする夕霧の心そのままに、世界が何から何まで艶なる世界に変じています。滝の音も聞く人の心情によって聞こえ方が変わるのです。(以下略)
従って、本著には紫式部が約千年前にふれた世界を、現在の京都に探しだしながら、写真を撮り、源氏物語を語りながら、収載している。副題には、「歳時記を編む」とあるとおり、春夏秋冬に纏められている(俳句的だ・・)。暦の上では、立夏も過ぎた頃合い、ブログタイトルにした部分は、二十四節気の小暑「蓮始華」の「24 蓮の花咲く頃」の文中からの紹介である。
門外漢の愚生が源氏物語などを紹介するのは、何故か、といぶかしがる向きもあるだろうが、著者・岸本久美子の旧姓が「赤間」であるということを、さらに高校の同窓生であることを教えてくれた、古希を閲したとはいえ、世が世ならのお姫さまがいらっしゃるのである。そのお姫さまは、数十年前より「ば~ら通信」なるものを月一度のペースで配達して下さっている。お陰で、同窓生の動向がそれなりに理解できているのである。それにしても、今も昔も女性軍が優秀なのは、わが母校の伝統らしい。
岸本久美子(きしもと・くみこ)山口県山口市生まれ。ブログ「岸本久美子の風信帖」。
日本朗読検定協会 朗読インストラクター。
1986年5月10日↑
十日、例のフィルビ-事件に想を得た、M・バー=ゾウハ―『真冬に来たスパイ』はB級作。
スパイ小説が徹底しないのは精神を扱はないからだ。ただし、社会機構と犯罪の息遣ひの実在感がこれを救ってゐる。
吊り橋ほどの夏、空理微論を攫へり 阿部鬼九男
*『黄山房日乗』へ35年後の剽窃譚・・・
5月10日(月)・・・晴
フィルビ―事件とは、キム・フィルビ―(1912・1・1~1988・5・11)がイギリスの秘密諜報部(M16 )職員で、ソ連情報機関(NKVD・KGB)の協力者。二重スパイであることが発覚しソ連に亡命した(1963年)。1965年にソ連政府から赤旗勲章を授与されている。1968年,KGB監修のもと回顧録『My Silent War』を出版(邦訳『プロフェッショナル・スパイー英国諜報部員の手記』(笠原佳雄訳・徳間書店、1969年刊)。1980年レーニン勲章を授与され、ソ連が崩壊する直前、1988年にモスクワで死去。
マイケル・バー=ゾウハ―『真冬に来たスパイ』(広瀬順弘訳・ハヤカワ文庫、1986年4月刊)の「訳者あとがき」には、『多少ストーリーの展開という点で、これまでの作品ほどの派手さはないが、これは現実に起きた事件をかなり組み入れているため、その事実関係に動きを封じられたからかもしれない。(略)グレアム・グリーンも描いた”スパイたちを動かすヒューマン・ファクター“的な面もじっくり書き込まれていて、これまでとは一味違ったスパイ小説に仕上がっている」とあった。
裏切りの尾籠ならずや夏の椅子 大井恒行
撮影・鈴木純一「母の日の母の似顔絵目鼻なし」↑
1986年5月9日↑
九日、健在と聞きし渡邊啓助に三十余年ぶり対面。「鴉展」オープニングパーティ(高輪)鯉沼廣行、横笛にて饗応。
主題に変ずることの出来ぬ怪(け)のやさしさにあまり立ち入らぬこと。ヴィジョンの強さを失ふ。
「人も馬もそれっ切りだぞ」蚕祭文 阿部鬼九男
*『黄山房日乗』へ35年後の剽窃譚・・・
5月9日(日)・・・晴
渡辺啓助(1991・1・10~2002・1・9)は、推理小説家。鬼九男は群馬県渋川に育っている。渡辺啓助は一時群馬県立渋川高校の英語教師をしているし、家族の疎開先でもあって、戦後、昭和20年代を渋川で過ごしている。地元での面識があったのだろう。それが「三十余年ぶりの対面」と思われる。この頃、渡辺啓助は『鴉ー誰でも一度は鴉だった』(山手書房)を刊行。その「あとがき」に、「(前略)とにかく、私の『鴉』は学術書のたぐいではなく、ミステリー作家の『誠実なアソビ』のエッセイと考えていただきたい。(中略)そして、私自身が気のむくままに自筆の鴉の絵をいたるところに挿入させてもらったことも鴉と意気相通ずることの楽しさをほのめかしたものと思っていただきたい」と述べられている。また、愚生の地元、大國魂神社の御使いの鴉の団扇、暗闇(くらやみ)祭に「ミステリアスでファンタスティックで土俗的な情感が湛えられていて」と、出てくる。
(高輪)はたぶん高輪プリンスホテルであろう。鯉沼廣行(1943年~)は横笛奏者である。
句の「蚕祭文(シラアのさいもん)」は、遠野市・遠野物語にまつわる文化財。歩き巫女とよばれたものが各地に伝えた。「おしら様」は民間信仰の養蚕の神であり、眼の神であり、女の病を祈る神であり、子どもの神などでもあるという。男女一対の桑の木の偶像で、馬頭のものもあるという。
桑若葉 神よせの白い虫黒い馬 大井恒行
撮影・芽夢野うのき「誰もあやめませんあしからずアヤメ」↑
1986年5月8日↑
八日、「銀河系つうしん」六号着。意欲的編集、安井浩司五十句を寄す。時評の川名大はミスキャスト。
安井の句、〈洪水に身を現わせる魚がある〉キリスト教に囚われず、大きく把握したし。暗号(四月一日)の一つ。
父はも、深芹の彼方の檻よ 阿部鬼九男
*『黄山房日乗』へ35年後の剽窃譚・・・
5月8日(土)・・・晴
「銀河系つうしん」は、西川徹郎の個人誌ながら1000部を発行していた。
「暗号(四月一日)の一つ」は、四月一日の三鬼忌に因み、三鬼「秋の暮大魚の骨を海が引く」が潜んでいるのでは、と勝手に推測する。また、深芹(ふかぜり)には、「かくれつつきくからにこそふかせりのおふるそこそとおもひやらるれ」(元親王集)、「茎も葉もみな緑なる深芹は洗ふ根のみや白く見ゆらん」(拾遺和歌集・物名)がある。
白根の檻や深芹のみな緑なれ 大井恒行
1986年5月7日↑
七日、城ケ崎海岸散策。コース半ばに吊り橋有り。“吊されし橋“。池田二十世紀美術館「司修の世界展」
句では語りたい部分を破壊して置く。ナラトロジーは彼等に委ねる。ヴィーン幻想派は魅力をひけらかす。
さあれ山水 あかとき果肉を啖ひ 阿部鬼九男
*『黄山房日乗』へ35年後の剽窃譚・・・
5月7日(金)・・・曇
池田20世紀美術館は1975年5月に設立され、わが国初の20世紀に制作された絵画・彫刻、ルノアール、ボナール、ピカソ、マチス、レジェ、シャガール、ウォ―ホル、ミロ、ダリ、など約1400点を所蔵。ニチレキ株式会社の創立者・池田英一の寄付によって開館した。彫刻家・井上武吉の設計で、外壁は日本ではじめてのステンレススチール張りになっている、という。
司修(つかさ・おさむ、1936年生~)は画家・小説家・エッセイストだが、書店員だった愚生には装幀家としての印象が深い。ヴィ―ン幻想派はウィーン幻想的リアリスム派とも言われ、第2次大戦後、ウィーンで興った幻想的な絵画で、ボスやブリューゲルなどの北方絵画の伝統とシュルレアリスムの影響が濃い、といわれている。
山水に非在の鳥の舞いおりぬ 大井恒行
第24回「ことごと句会」切手句会、雑詠3句+兼題「白」。以下に一人一句と寸評を紹介しておこう。事務局の金田一剛は、この連休直前、激痛で救急搬送され、胆のうの緊急手術をしたらしい。その退院後の最初の仕事が、この句会報だ。お疲れさまでした。一日もはやい本復を祈ります。
深紅(くれない)のツツジ燃え咲く獄(ひとや)前 渡辺信子
春愁眉毛の位置が定まらぬ 渡邉樹音
紋白蝶吾の書斎を覗き去る 武藤 幹
くだらねぇとつぶやいた余白 らふ亜沙弥
ぼんやりしにゆく噴水の白い陰 照井三余
日の丸の匂いじんわりみどりの日 江良純雄
日は西にムサシノキスゲ月在処(ありか) 金田一剛
白はMr(ミスター).ヨシノリ・タニの走るひらひら 大井恒行
⑥「センテンス」・・「とける」がかなで、「縺れる」が漢字。これはこれでいい(剛)
⑲「深紅の」・・罪と深紅の相性の良さを買う。「咲く」は言わずもがなでは?(純雄)
⑮「春愁」・・すべてを疑え、そんな時間をもうどれほど過しただろう。(信子)。
㉚「紋白蝶」・・一日に数回彼の書斎を覗く。ただそれだけの日常です。私は黒揚羽蝶かも(亜沙弥)。
⑫「くだらねぇ」・・「余白」と「くだらねぇとつぶやいた」ことの取り合わせが見事 (幹)。・・そういうことがいかにもありそうである。なかなか埋められない余白もありそう(恒行)
㉔「ぼんやりしに」・・「ぼんやりしにゆく」の「し」には「死」がかくされてもいる (恒行)。
③「日の丸の」・・今の若者はみどりの日の意味を知っているのだろうか(樹音)。
㉒「日は西に」・・日没を待ちかねた白い月。蕪村の俳画が浮かぶ(信子)
⑩「白はMr.」・・谷さんを知っている私には嬉しい句でした(亜沙弥)。毎日走っていた谷佳紀さん。私は2~3度お話しできただけだが、精々しい思い出が残っている(幹)。