2014年6月8日日曜日

宮崎斗士「背泳ぎや太陽があるちょっと照れる」・・・


宮崎斗士句集『そんな青』(六花書林)は、少し不思議な句集である。
金子兜太の帯文は短く「詩が溜っているから 峠をどんどん歩いてゆく 鹿や狐や猪に よく出会う どっちも笑う」とユーモラスに賞揚されている。
あるいは、栞文は4名。安西篤、塩野谷仁、柳生正名、小野裕三、これらの陣容をみれば、俳誌「海程」の申し分ない嫡子、エースのような存在であろう。
しかし、そのいずれの評文も、宮崎斗士の俳句を明確につかみきれないことがどこかににじみ出ている文なのだ。そして、それがまた宮崎斗士の魅力であり、新しい俳句の一つの道ではないかと思わせている。その道はしかしどうやら宮崎斗士にしか歩めない、余人にとっては意外にたどるのに難しい道のようでもある。
かくいう愚生も、斗士俳句の実態をつかみかねている一人ではある。
思い起こしてみると、平成21年第27回現代俳句新人賞(この賞は現代俳句協会員以外の応募も可、年齢制限以外はすべてに開かれている賞である)は、愚生が選考委員の一人になって初めての選考会だった。確か各委員の選考評が拮抗して宇井十間と宮崎斗士の二名授賞になったと思う。
もちろん、無記名での選考だから、最後に事務局から受賞者名が明らかにされるときは、選考委員自身も興味深々なのだ。開けてみたら両名とも「海程」所属だったので、思わず、また「海程か~」とつぶやいたほどだ。それほど、「海程」に有望な若い俳人候補がいるということなのだろうが、確かに応募作のなかでは、他に比して、安定した筆力と感覚の新鮮さ、なにより今後を期待できる俳句の世界がほぼ確立されていた、と思えたのだ。
栞文のなかで柳生正名は、

    青き踏むふとおっぱいという語感               斗士
   
    鮎かがやく運命的って具体的
    切り株や春ってさまざまな擬音
    「じゃ、上脱いで」とあっさり言うね蛇苺 

など、いわゆる促音「って」を使った口語調の句数は全体の4分の1に達すると分析し、「『って』は宮崎や、その同志tもいえる存在の芹沢愛子らが切り拓いた、あらたな文体世界と言えるのではないか」と評し、「宮崎の口語的な俳句空間には、その日常のリアルと連続した、つまり逃避のための句作りとは違う強さがある」と指摘している。

  また、小野裕三は親愛を込めて「そうだったのか。「『ポストモダン俳句』運動は宮崎斗士に始まり、宮崎斗士において完成したのだ。たった一人きりの俳句革新運動。どうやら世の中の多くの人がそのことに気づいていないらしいのが、どうにも歯痒く思えるのだが」と述べている。

句集のタイトルが「そんな青」だから、青色を思わせる句もいくつかある。それは同時に空でもある。

  葉月かな打球が伸びて空がある
  体操もラムネも空に向かって礼
  治虫忌や抜歯のあとの青い空
  夏帽子おのおのさがす青があって

ともあれ、最後にはいつものことながら愚生好みの句を挙げさせていただきたい。

  消去法で僕消えました樹氷林
  高校俳句部今日の講師は雪女
  柿の色とにかく生きなさいの色
  家族というはるかな議題水蜜桃 
  背泳ぎや太陽があるちょっと照れる
  

                                             グミ↑


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