2015年11月22日日曜日

高橋龍「かの日夏白木の箱の中は紙」(『人形舎雜纂』)・・・



高橋龍『人形舎雜纂』(高橋人形舎)は、遠山陽子個人誌「弦」にほぼ十年に渉って掲載された論文に書下ろしを加えて、まとめられた一本である。「あとがき」にその由来を記している。

 昨年の秋から読み返してきて、執筆当時には思い至らずまた資料の見落としの多々あることに気付き、それらをそれぞれの追記として書き加えることを思いたった。だがなかなかに筆がすすまず、書きはじめたのは七月半ば、それから猛暑の八月一ぱいかけてようやく完了した。その間に、「後備役」以下の三篇を書いた。すでに脳内は老化甚だしく八十六歳の衰齢であれば文の粗放乱雑はお許し願いたい。

いずれの論も高橋龍らしく詳細を極め、よく事実を調べ上げている。例えば、その「後備役」の章では、以下のように指摘している。

富澤赤黄男『天の狼』所収の戦場詠「蒼い弾痕」(六十六句)については、これまでに数々の論考があるが、その軍歴に大きな誤りがある。そのいずれもが彼の階級を工兵少尉としている(昭和十五年中尉に進級)が、その誤りは『定本・富澤赤黄男句集』および『富澤赤黄男全句集』の年譜を見落としていることから生じるのである。

として資料を駆使し精緻を極めた筆致で、その正しい軍歴を追及していくのである。また赤黄男の転戦の跡をも探っている。

本著の巻尾には「句控 擬檀林(又は戸袋文庫)と題して自らの最近の句を収めている。
その中からいくつかを以下に挙げておこう。

     赤茄子の腐れてゐたるところよりー茂吉に倣ひて
  自転車のたふれてゐたるところ百合
  桃の実を無意味の海へどんぶらこ
  秘密保護法卵食ふときマスク取る
  マラルメも定家も持参する歳暮




★閑話休題・・・
高橋龍の友人でもある阿部鬼九男を、つい先日、酒巻英一郎と救仁郷由美子、愚生で訪問した。その折、めずらしく、彼の師であった加藤かけい、また村上鬼城、そして彼自身の短冊を持って行けと言われ、一度は断ったものの、それではといただくことにした。(鬼九男さんの短冊は本日のだれも所蔵していないし・・・)。来年、桜の季節には是非とも宴をしましょう、と約して鬼九男宅をあとにした。



                火鼠を追ひ込むふきげんな日常へ  鬼九男↑
                十二夜に蟹のカノンの不肖の火事



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