2016年2月20日土曜日

辰巳泰子「働きすぎと倒れふすのを繰り返し食費欠かさず入れる性分」(「月鞠」第16号)・・・




月鞠(げっきゅう)第16号(編集発行人・辰巳泰子)の巻頭随想は佐藤明彦「詞あさきに似て」の寄稿である。佐藤明彦は『三冊子(黒さうし)』の一節「師の曰く『大方の露には何の成ぬらん袂におくは涙なりけり、この歌は、鴫立つ沢に勝つ歌なり。面白し』と也」を引いて、以下のように述べるのである。

 俊成は『千載和歌集』に「大方の」のを歌を入集させ、「鴫立つ沢」を落とした。思うに、判詞中の「詞あさきに似て。心殊にふかし」は、晩年の芭蕉が目指した「かるみ」に通ずる。何でもない事柄が何でもない詞よって浅川の流れのような調べをもって詠まれる句。『奥の細道』の旅を終えた芭蕉は、この判詞に「かるみ」に通うものを覚えてはっとしたのではないか。その結果吐かれた言葉が「面白し」ではなかったか。

編集後記には「佐藤さんは、わたしが、ちいさな子を抱え路頭に迷うとき、職に就かせてくださった恩人です」とあった。
佐藤明彦は昭和27年、北海道釧路市生まれ。辻桃子「童子」の編集長である。かつて三省堂版『現代俳句大辞典』は、その刊行に当たって、彼が下請けとして実務を仕切っていた、と記憶している。その折、愚生も面倒を見てもらったのだ。

辰巳泰子百首歌「あん」より、いくつかを以下に挙げておこう。

  坦々と日々は均しておくのだよ 風立ちぬればかぜが絵を描く      泰子
  憎まれたまま生き延びるおんなよりなんでこの子がさきに死ぬ
  冷たくてなまめく天(あめ)のうすぐもり草生(くさふ)の我に寄り添え まなこ
  集団的自衛権より集団的愛護を受ける権利が好き
  かけてといえば毛布をかけてくれまして駱駝のような亭主なら欲し


           

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