2017年3月27日月曜日

丸喜久枝「船霊を抜きて船焼く春の雷」(『青鷹』)・・



丸喜久枝第二句集『青鷹』(書肆麒麟・300部限定,私家版)、装幀は河口聖。句集名は次の句に因む。

    ゆつたりと神の高さに青鷹       喜久枝

青鷹は諸回り(もろがえり)と読み、生後3年を経た鷹のこと。俳人の好きな難読季語のひとつだろう。
磯貝碧蹄館に師事し「握手」同人を経て、現在「円錐」同人。従って句歴も長く句姿のしっかりした句を書かれている。また、くり返し父母のことを詠まれている。

  グァム島の熱砂ぞ父の戦死の地
  父の日や風過ぐ天に父の声
  父散華以後の月日や花菫
  父祖に買ふ地酒二本や寒桜
  母の手の大きく厚し麦の秋
  菜の花や母の野良着の盲縞
  長命の母に好みの菊膾
  初時雨気弱くなりし母を訪ふ
  腰痛は母似にあらず鵙猛る
  一生を農に母老ゆ秋の風
  蓑虫の繕ひ母の居らざりし
  幾千の蟬に鳴かれて母逝きぬ
  無花果や母の形見を着ず捨てず
  葉桜やどこへも行かぬ母笑まふ
  身に入むや母の形見の帯を締め
  
多くの句を抜くことになったが、以下には、愚生好みの他の句をいくつか挙げよう。
 
  峡の田を植ゑて生涯とどまれり
  烏瓜引けば女人のふところへ
  寒菊の気勢ととのふ朝茜
  藤の袈裟かけて微笑む磨崖仏
  石臼を捨てず使はず春埃
    
丸喜久枝(まる・きくえ)1935年生まれ。



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