2017年3月5日日曜日

瀬山由里子「星月夜腐食銅板進行す」(『織と布そして猫とヴェネツィア』)・・



瀬山由里子著『織と布そして猫とヴェネチツィア』(風の冠文庫)。著者は昨年3月に膵臓がんにて死去。享年70.略歴によると、「2001年「鬣」創刊に参加、同誌にエッセイ、書評を発表。自宅では児童文庫『山猫文庫』を開いた。元群馬県立図書館嘱託司書。大学時代に詩を書き始め、詩集に『撃たれることを夢見ていた鳥』(自費出版 1969)」とあった。巻末に「鬣」同人を主軸とする追悼句、追悼文、そして跋文にかえて瀬山士郎「さよなら」が収載されている。それらを読むと、「鬣」のなかでは特別に慕われ、かつ優しさに満ちた人柄だったことが知れる。
瀬山さんには袋物作家としての顔がある」(林桂)という。そしてまた、永井江美子は「存在の優しさ」で以下のように記している。

 十二月にお邪魔すると、みんなびっくりするような素的なバッグをたくさん制作していた。手仕事ができることがとても幸せだと、せっせと手を動かしながら話してくれた。由里子さんの触れるもの話すもの全てに光が宿っていくような、優しくて美しい時間の中にいた。私は死に対する概念が変わっていった。自分らしさを大切に生きた由里子さんは本当にかっこいい。こんな人に出会うことはもうないだろう。由里子さんありがとう。これからもずっと大好きだよ。

瀬山由里子は書評のなかで「『白夢』浅香甲陽 『療園断片』竹内雲人ー知られぬ句業・俳人たち」において、

”風の花冠を捧げる・・・世俗の栄誉を表す冠の対極にある、詩人の名誉を讃える意味である。花は自分の美しさで輝く。風はその美しさを讃え磨く”俳人として生きる彼自身の覚悟がこの言葉にあらわれている。われわれは復刻されたおかげで簡単にこれらの句集を手にすることが可能になった
。(中略)

   喉管を白き狐が夜夜覆ふ       甲陽
   東風吹くや朝の玻璃戸に曇りなき  雲人

と書き記している。いま、その「風の冠文庫」で自らの遺稿が出版されることになるだろうとは、たぶん予想だにしていなかっただろう。ご冥福を祈る。



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