2017年6月20日火曜日

横沢哲彦「梟や頼りの母に忘らるる」(『五郎助』)・・



横沢哲彦『五郎助』(邑書林)、句集名は次の句に因む。

  吾郎助や寝つかれぬ夜は寝てやらぬ     哲彦

五郎助はゴロスケホウホウ、フクロウのこと。序文の小川軽舟はこの句について以下のように記している。

 横沢さんの自画像の秀作。何かに腹が立って仕方ないのか。あるいは家族に心配事でもあるのか、蒲団を被っても目が冴えるばかりなのだ。そんな作者をからかうような五郎助、つまり梟の声が聞こえて寝つかれないというだけでは平凡だが、たまりかねてがばっと起き出した「寝てやらぬ」の開き直りがなんともおかしい。

また、著者「あとがき」には、

 学生時代、実業団時代と運動一筋で過ごして生きて来て、五十代半ばに、運動以外のことをやりたいと漠然と考えていた時に選択したのが「俳句」でした。デスクワークを殆んど経験したことのなかった私にとって「文芸」の道は苦難以外の何物でもありませんでした。それが今日まで継続できたのは平成十年晩秋「鷹」に入会出来たというラッキーな出会いにほかならないと思います。

という。跋文の小浜杜子男は横沢哲彦の人間的魅力に筆をかなり割いている。
ともあれ、いくつかの句を愚生の好みで挙げておこう。

   品書は当字ばかりや花見茶屋
   消印の白馬思へる氷菓かな
   老舗とて養子五代や晦日蕎麦
   転げ来しものどんと火に蹴り返す
   釘付けの生家となりぬ秋ざくら
   三方に山あるしだれざくらかな
   紫陽花や母に宛てたる文の嵩
   街抜けし川の疲れや都鳥

 横沢哲彦、1942年、東京生まれ。




  

0 件のコメント:

コメントを投稿