「山河」351号(山河俳句会)は山河賞の発表である。平成29年山河賞受賞作品は土屋秀夫「深夜レストラン」10句。同誌、同号には愚生が第44回競作「チャレンジ俳句」(課題は春季・着色)の選句と句評をしているので、恥しながら、以下にその一部を転載しておきたい。
第四十四回 競作 チャレンジ俳句 課題「着色」春の季
春は蠢く
春は、その語源の説によれば、芽が張る時のことだと言われる。また、ものの本によると「張る」は芽生えるの「ハエル」の中略であるともいう。もちろん「ハエル」には成長する意味がある。万物が蠢動を始める時期である。季節は成長し衰えていく。その季節の幸先が春(張る)という。いずれにしても、春はこころを浮き立たせる明るいひびきを感じさせるものである。色を着けるとなればなおさらであろう。
天 色着けし真赤なシューズ柳の芽 稲田 ゆり
春の美しい風景を喩えて、柳は緑、花は紅などと言われている。「柳の芽」だから緑というわけにはいかないが、柳の芽の萌黄色の枝垂れる様は、春の風情そのものである。上五の色着(付)けしは、「真赤なシューズ」、「柳の芽」の両用にかかり、対比は軽やかで春の明るさに満ちている感覚が好ましい。
地 頂上まで人工着色チューリップ 吉田 慶子
山の頂上であろうか、それとも小高い丘の頂上であろうか。いずれにしても頂上までチューリップが植えられ、彩りも豊かである。が、作者はどうにも人工的で面白くないと思っているのである。素直に彩りを楽しんでみては、と思うのだが。それが諧謔的な味わいとなっていると言えようか。
人 春風が着色剤です初桜 近藤 斗升
春風こそは春の到来を肌で感じさせる。その春風が様々に色めく花を開かせる。あたかも着色剤のように、である。古来、「花開くれば天下の春とぞ知り」(『連歌至宝抄』)とあるが、中でも初桜は、その年の春に初めて咲く桜の花。初桜(初花を愛でる)は、開花を待つ人々の心の深さをも現わしていると言える。
秀作 佐保姫の春衣は誰が色着けし 大月 桃流
着色も保存も無用桜花 後藤 宣代
着色はセピア色ですつくしんぼ 岡崎やよい
天然の着色料や春野山 小林 和子
春の海インスタ映えに着色す 絲布 みこ
春の夢ドラマチックに着色す 中西 祥子
思い出す度に着色花衣 小松 優子
貸しボート着色されて水ぬるむ 竹腰 素
墨絵にも紅の着色梅咲かす 難波 俊子
着色の爪を競いし卒業式 久保浩一郎
佳作 春の野の着色係誰ですか 小林十六夜
風花に着色されてゆくふたり 山本 和子
大風呂敷ひろげ佐保姫着色中 福永のたり
春の雪着色されし街覆う くぼゆうこ
白梅は着色されず静かなる 穴原 達治
その他にも、特別寄稿「現代俳句ネットワーク」は宮崎斗士「兜太誕生(一)」は楽しみな連載である。
撮影・葛城綾呂↑
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