2018年4月30日月曜日
谷さやん「黒葡萄濡れる憲法九条も」(『空にねる』)・・・
谷さやん俳句とエッセー『空にねる』(創風社)、帯文は坪内稔典。それには、
さやんさんの暮らしの中心に俳句生活がある。俳句を作り、吟行し、仲間と議論し、ときどき勉強する。(中略)失敗したり嫌なことがあっても、俳句生活が元気づけてくれるらしい。その証拠に、この本の俳句もエッセーもまさに淳熟している。
とあった。優雅といえばこれほど優雅な俳句生活もないが、エッセーのなかで、興味のありそうな俳人の名は、芝不器男、篠原鳳作、秋元不死男、三橋鷹女、三橋敏雄などのようだった。愚生からすれば、一般的ではないクセをもっている俳人たちである。
なかに愚生が最初に知った頃の東沙趙(英幸)を語った部分がある。
「愛大俳句会」から出発した東さんの句歴は、五十年。「三年浪人したもんだから、妹の方が先に大学を卒業した。一年も留年したしね」という驚きのエピソードを病室で話してくれた。なんだか嬉しくなった。俳句人生もまたゆったりとした歩みで、私を引っ張ってくれる。
〈アジビラを受け取る朝の底冷えに〉は、学生時代の安保闘争を背景とした東さんの俳句。〈少年が少年である夏の山〉のおおらかさ。〈ごみ箱に躓くバレンタインの日〉のトホホ感もいいなあ、と思う。
入院中の「言語」「手作業」「歩行」のリハビリのうち、言語の先生が一番に身を引いたと、誇らしげに言う。
近いうちに、また東社長の影が映る事務所を訪ねよう。更に磨きのかかった東流俳句論とダジャレを、心行くまで聞いていたい。(2016・10・10)
たぶん、東英幸は、もう元気になっていることだろうと思うが、愚生らは、どうやら、世間的に言うとリッパに晩年に属しているらしい。本復と自愛を祈るばかりだ。
ともあれ、本書よりいくつかの句を挙げておこう。
空にねる脚長蜂をおこしたか さやん
靴底の懐炉回送電車また
短日の本を出てくる手紙かな
冬青空すすみて「赤旗」をもらう
秋風や口の限りのあくびして
冬蜂もデモ行進も退路あり
よく晴れて船と蝶とがわかれ行く
本を読むとき退屈な金魚たち
撮影・葛城綾呂 ナガミヒナゲシ↑
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