2020年7月30日木曜日

久光時子「杖ついた長い影わたしをつれてゆく」(『男という孤島』より)・・・




 久光良一第4句集『男という孤島』(文學の森)、ブログタイトルにした句の作者・久光時子は本年3月に亡くなった久光良一の妻・時子の作品である。本集の巻尾に一章を設けて「姑の笑顔」の題で句が収められている。そのいくつかを、まず挙げておきたい。

  お鼻いくつときけばお花いっぱいと孫はいう     時子
  いのちの温もり頬にふれる介護
  眠る笑顔に救われた永き介護まぶたの中に
  宅配便ぎっしり詰めて親バカの一日暮れる
  咲いてはなやか散ってはなやか山茶花
 
著者「あとがき」に、

  杖の音が聴きたい お帰りと言ってやりたい
               (令和二年暮春・妻へ)

 私もいつのまのか八十五歳。その年齢による老化が作品に表れているような気がしないでもありませんが、私にとってこれらの句は、この時代を生きた大切な記録ですから、貴重な足跡として残しておきたいと考え上梓することにしました。 
 正直言ってあと何年句作が続けられるかわかりませんが、体が許す限り、これからもこの道をきわめる努力を続けて、少しでもポエムの深淵に近付きたいものだと思っています。

 とある。集名に因む句は、

  真っ赤な旗を立てよう 男という孤島に

  であろう。ともあれ、自由律俳句の貴重な一本である。以下に幾つかの句を挙げておこう。
  
  自由な晩年に五体の不自由がある          良一
  わたしという借り物を返すところがない
  心の準備が出来ぬまま自動ドアがひらく
  ポケットにおさめた拳を持ち帰る
  寒夜のカーテン閉めて月に居留守を使う
  余白多い手紙の余白を読んでいる
  散るさだめ知らない桜が咲きはじめた
  風が止んでふとわれにかえったねこじゃらし
  また来た春を今年の歩幅であるく

 久光良一(ひさみつ・りょういち) 1935年、朝鮮平安道安州邑生れ。
 

       芽夢野うのき「手花火のだれもいなくなるまでひとり」↑

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