石倉夏生第二句集『百昼百夜』(本阿弥書店)、本書は『バルビーサの牙』(平成20年刊)につぐ第2句集、330句を収載する。帯文は山崎聰、それには、
映りたきものを映して冬の沼
冬の沼は無表情にして無意識。だから映りたいと思うものすべてを受け入れる。
氏の云う「虚の奥の実に拘泥し」とは即ち「実つまり真」を表現するということ。
善きかな。これからの氏の仕事に注目したい。
とある。また、著者「あとがき」には、
句集名は、収載句の引用ではなく、夜となく昼となく生まれ出た俳句時空の片々の累積を、象徴的に束ねて『百昼百夜)とした。
句集を編むにあたり、多量の自作を見つめ直し、取捨選択をくり返しながら実感したことは、第一句集の時と同様の、達成感の稀薄さであった。
私は長い歳月、虚と実でいえば虚を意識して句を作り、虚とはまさに虚しさのこと、そう覚悟しつつ、虚の奥の実に拘泥し、現在に至っている。残された未来を思えば、このまま進むほかはない。そう思っている。
と、記している。厳選された句群である。ともあれ、愚生好みに偏するが、以下にいくつかの句を挙げておきたい。
歳月の深きところに山法師 夏生
春の雪わが暗澹を濡らしをり
天の川華厳の滝へ繋がれり
天寿なり春の柩よ帆を上げよ
桜咲くたび父は戦死をくり返す
これが母の有季定型柏餅
八月や死者も生者も水を欲る
団栗は落ちる地球は浮いてゐる
佳境にて死者も加はる盆踊り
悪夢もどうぞ極上の羽根布団
銃・戦車・兵士・晩夏の玩具箱
逃水の一瞬ゲルニカを映す
少女泣くまで少年の水鉄砲
蜃気楼めざす舟あり我も乗る
綿虫は綿の重さを知つてゐる
薄氷は水に責められ水になり
石倉夏生(いしくら・なつお) 1941年 茨城県生れ。
芽夢野うのき「裸木に夕日あの日から耳鳴り」↑
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