2021年1月13日水曜日

後藤信幸「蝌蚪の時間(とき)石の時間と重なりぬ」(『「葛の空」後藤信幸全句集』)・・ 


  後藤信幸全句集『葛の空』(邑書林)、帯の惹句に(原文は正字)、


 リルケが「ハイカイ」と題するフランス語三行詩を書いたこと/ジャコテが《旅人よ我名よばれん初しぐれ》などをフランス語訳したこと/ジャコテを日本に紹介したフランス文学者・後藤信幸が俳句を詠んだこと/この連関の内外に郷里竹田の澄んだ空と、人を拒絶する石の城壁はある/

《俳句はイマージュのないポエジー》

ジャコテを俳句に引き付けた本質的要因を、著者はこう語る

市井の俳人としての顔を貫き、団地俳句会を愛した男の精神の風景/741句

 

 とあり、また、帯の背には「透明な詩想の結晶」とある。そして、「あとがき」は後藤信幸の妻・後藤リラ子。それには、


 後藤信幸全句集『葛の空』を皆様のお手許に謹んでお届けできますことを喜び、伏して神仏に感謝する心でございます。(中略)

 つね日頃「全句集とジャコテ詩集『緑の手紙』の出版は、自分に残された命との競争」と、身近な人たちに言い言いして参りました。そんな折、永島靖子さんよりの年賀状に、何か手伝うことがあれば、という意味の添え書きがあり、これは天の助けとばかりに、助力をお願いした次第です。(中略)

 団地の親睦句会「花水木句会」では、後藤信幸ではなく、游行(ゆうこう)という俳名を使用して居りました。シンニュウではなくサンズイにしたのは、遊行上人に遠慮したからだと言って居りました。


 とあった。集中、全句集名に因む句は、


    ひと逝くやうすむらさきの葛の空     信幸


 であろう。ともあれ、愚生好みに偏するが、集中より、いくつかの句を挙げておきたい。


   伊那谷に星墜つ闇の杉木立 

   初蝶の冷たき闇に吸はれけり

   戸隠や霧まきくだる岩つばめ

   水澄まし水と言ふ字の浮かびをり

   水底を覗くかまきり冬来る

   鳥の眼に鳥の死映る雪の原

   秋蝶を幻と見て眠りけり

   雪中の夢人語あり鳥語あり

     宮柊二

   柊二居り一穂居る牟礼の秋

   ある日ふと枇杷の花咲く晝の夢

   ささささとささささとただ山は秋

     2006年

   在りて無き世の薄闇に花こぶし

     2008年

   ある世わが皓々(かうかう)とせし月の庭  

     2012年

   柏(かしは)落葉葉守の神と言ふべけれ

     2004年(花水木句会)

   枯山に枯山を切る風の音

     2010年

   この谷戸の稲穂直(すぐ)なる鬼やんま

     2017年

   降りしきる梅雨そはわれの魂鎮め


 後藤信幸(ごとう・のぶゆき) 1930年~2017年。大分県竹田市生まれ。



     芽夢野うのき「いつもあるその青空の手前の木」↑  

0 件のコメント:

コメントを投稿