2021年1月29日金曜日

目迫秩父「狂へるは世かはたわれか雪無限」(「多摩のあけぼの」NO.137より)・・・


「多摩のあけぼの」NO.137(東京多摩地区現代俳句協会)、巻頭のエッセイは、水野星闇「もうひとつの療養俳句ー評伝・目迫秩父と『雪無限』」。その結びに、


  (前略)逆境にあっても、やや古風なスタイルの中にしっとりとした情感が滲み出るリリカルな作風が、本来の目迫であったと句友達は証言している。時には、覇気満々の頼もしさを感じさせる実作一本の俳人であった。しかし、暗く重たく、そして澄み透って行くその作品群は、突然の死によって永遠の終結を迎えたのである。

 師の林火は、突然の目迫の死を嘆き、次の悼句を捧げた。

  寒や死に抗しつづけし薄屍        林火

  誰が禱りし焼かれかぎろふ千羽鶴

  百千鳥柩の汝を運ぶ上


 とあった。目迫秩父(めさく・ちちぶ)横浜市生まれの生年と没年は、現代俳句大辞典(三省堂)では、1916・3・24~1963・3・18、享年46だが、本稿では、生まれが1917(大正6)年になっている。俄かには調べられないので、どちらかが、誤植なのであろう。他の秩父の句を、同誌より、いくつか挙げておこう。


    枇杷の花安房にはまれの雪をみき   秩父

  外套も鞄も海もただ黒し      

  よべわれの仮死に夏月真赤とよ

  すきまなき宙の雪片相触れず

  熱に狂へる咳大尽と申すべし


さて、「多摩のあけぼの」の題字は三橋敏雄。毎号、会員の一句「あけぼの集」と前号からの一句鑑賞が掲載されている。「あけぼの集」から、いくつかを以下に挙げておきたい。


  おう来たか兜太朗人冬日向        安西 篤

  ふり向きて別人なりし冬木立       江中真弓

  どこかで汽笛ガラスへ響く文化の日   金谷サダ子

  十二月かなしいものから燃やしてゆく   沢田改司

  セーターの闇から這い出すきつね耳    芹沢愛子

  晴れ過ぎし海を眩しむ三橋忌       遠山陽子

  したたかに生きる古書店鏡花の忌     永井 潮

  切り株は静かな器兜太の忌        宮崎斗士

  秋刀魚焼く無頼の過去を煙(けむ)にして 武藤 幹

  影笛に焦がれ死にする影の鳥       大井恒行 



    撮影・芽夢野うのき「ゆく鳥のはなむけ岸辺をはつゆき」↑

0 件のコメント:

コメントを投稿