「磁石」2021年1-2月/創刊号(磁石俳句会)、依田善朗「新俳誌『磁石』創刊の辞」に、
(前略)鍵和田主宰は、「俳句は抒情詩の一つとして、作者の生(レーベン)の実感を、自分自身のことばで、生き生きと表現すべき」と語っていました。その精神を受け継ぎ、「命を伝える俳句」を目指します。生きとし生けるものの命を身体でしっかり受け止め、心で昇華し、全身から湧き出た言葉で語る俳句を作っていきましょう。五七五という短い詩のなかに、自然や自己の実相を表現できたとき、私たちは無上の喜びを感じるのではないでしょうか。
と記されている。昨年6月に亡くなられた鍵和田秞子主宰「未来図」の後継誌である。特集は依田善朗句集『転蓬』。創刊に寄せては、鈴木節子「高らかに乾杯」、藤本美和子「大きな森」、それぞれに祝句が献じられている。
朗々と磁石に年の立ちにけり 鈴木節子(「門」名誉主宰)
新玉の年の磁石を森の央 藤本美和子(「泉」主宰)
そういえば、愚生の仕事先の府中市中央文化センターの会議室では、この新年にも、日曜日の午前中に「未来図」俳句会の名で句会が継続されている。また、府中市中央図書館の4階、郷土の作家たちのコーナーには、「未来図」全冊、鍵和田秞子全著作物が棚に収まっている(ちなみに坂口昌弘、愚生の本も・・)。本誌本号をみると、その府中句会の責任者は、極光集の井上ひろ子らしい。
偲ぶ日や堀の一枝の帰り花 井上ひろ子
とあった。ちなみに編集長は飯田冬眞、その編集後記には、
(前略)私たちには、鍵和田秞子という「磁石」がある。「命を伝える俳句」の指針であり、磁力の根源だ。この磁石を胸に秘め、極域にあるオーロラ「極光」を目指して行こう。その「航路」こそが、俳句結社「磁石」の歴史になるのだと信じて。
とある。ともあれ、その極光集から一人一句を挙げておこう。
澄む水の寺の鼓動となり巡る 池田尚文
ひさかたの大和の杜の竜田姫 今田清照
杖の身にうしろより傘秋の雨 柿沼あい子
太枝の如く生けたる破魔矢かな 角谷昌子
曼珠沙華地球はいつも燃えてをり 河野絢子
山頭火忌崩れ石積ふれて行く 長澤寛一
人と人隔つマスクを外しけり 林 瑞夫
人の世を揶揄す背高泡立草 細井寿子
賀状掉尾「すべて仏のお導き」 守屋明俊
隻眼の鹿も等しく角伐られ 山田径子
★閑話休題・・・鍵和田秞子「金目鯛夕映え色を手放さず」(『鍵和田秞子全句集』)・・・
『鍵和田秞子全句集』(ふらんす堂)、既刊句集に第10句集『火の禱り』以後79句加えた作品、4042句を収録。「句集解題」は角谷昌子、「年譜」は石地まゆみ、「あとがき」に守屋明俊。初句索引と季語索引が付されている。装幀は和兎。ここでは、既刊句集未収録ゆえ、最後の句集『火の禱り』以後の句から、いくつかを挙げておきたい。
千年の礎石を支へいぬふぐり 秞子
青すすき魔物にあふと占はれ
ゆふさりを鳴くのがいのち秋の蟬
文明が銃に行き着く春霙
捕はれの鸚哥(インコ)騒げる開戦日
草も木もなびきし世あり建国日
わが部屋の寝乱れはげし沖縄忌
深秋や笑つていいよと犬が言ふ
鍵和田秞子(かぎわだ・ゆうこ) 1932(昭和7)年2月21日~2020(令和2)6月11日。神奈川県生まれ。享年88。
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