今瀬剛一第11句集『甚六』(本阿弥書店)、平成25年から29年までの321句を収載。その「あとがき」に、
この五年間はいろいろのことがあった。とりわけ親しい知人、友人を多く亡くしたことが悲しく、寂しい。私はそのたびに追悼句を詠んだが、その数は十指に余る。今まで健康だけが取り得だった私が病気をしたのもこの時期である。ただし、元来弱みを人に見せることの嫌いな私はこの時の作品を発表していない。それでも私の人生の大きな出来事にはちがいないのであるから、句集には残すこととした。今後何年の生を賜れるかは分からない。これが最後の句集となるかも知れないという思いは常にある。いずれにしても生ある限り自己実現としての俳句を愛し続けていきたいと思っている。
とある。集名に因む句は、
総領の甚六として福沸 剛一
である。ともあれ、愚生好みに偏するが、以下にいくつかの句を挙げておきたい。
上野。鈴本
紐切つてつないで切つてあたたかし
薄氷にありありと風及びけり
鈴木鷹夫さんを思ふ
青嵐ぶつかつて泣く相手亡し
雨を呼ぶ海の色なり曼珠沙華
水かけてすぐ乾く墓洗ふなり
旧制第五高等学校
誰も誰も逝きたる写真油照
浮人形浮いたきりとは淋しかり
古賀まり子さん
露草もあの歓声も永久に亡し
師の文字による師の名前墓碑灼くる
初写真笑ひ声まで写りけり
鈴木豊一さん逝く
茅花流し痩身吹かれ逝きしかな
小野さとしさん逝く
何も出来なくて金魚に餌与ふ
死して乾く涙とふ夏薊
歩かんとして空蟬となりたるか
今瀬剛一(いませ・ごういち) 昭和11(1936)年、茨城県生まれ。
撮影・鈴木純一「荒星や一つの箱に二個入る」↑
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