2022年5月28日土曜日

小川楓子「わらへつて言ふから泣いちやへががんぼ」(『ことり』)・・・


  小川楓子第一句集『ことり』(港の人)、著者「あとがき」の中に、


  作品は、わたしでもわたしの所有物でもないと思っています。なぜなら、スープのにおい、くすぐったい蟻、通りすがりの鼻歌などを授かって(いえ、素直に言うと、ひょいと掴まえて)放ったものだからです。集中の句はそれぞれ、友人のような存在として、ゆらぎながら、息づきながら、おおらかに歩んでほしいと願っています。


  とあった。集名に因む句は、


   ひとりとてもたのしさう蠟梅ことり    楓子


 であろう。ともあれ、愚生好みに偏するが、集中より、いくつかの句を挙げておきたい。


   泣きがほのあたまの重さ天の川

   たふれたる樹は水のなか夏至近し

   滝しぶきねぢれたるまま葉のそだつ

   椎若葉こころちひさくなつてきのふ

   にんじんサラダわたし奥様ぢやないぞ

   身に入むやつてことあるんだか寝ぐせ

   寒林へゆく胸のこゑつかひつつ

   素足ですし羊歯類の王ですわたし

   ひややかに鱗のふるる油紙

   陛下ごきげん金魚売かしらなんて

   甲虫ちつちやくピースだしていいし

   秋やハレルヤ絵具ぐんぐん絞る

   月にちかづくまでゆくよ

   黄葉ふるしなんかの実もふつてるし


  小川楓子(おがわ・ふうこ) 1983年、神奈川生まれ。



     撮影・鈴木純一「芍薬はちるのちらぬのちりにけり」↑

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