小川楓子第一句集『ことり』(港の人)、著者「あとがき」の中に、
作品は、わたしでもわたしの所有物でもないと思っています。なぜなら、スープのにおい、くすぐったい蟻、通りすがりの鼻歌などを授かって(いえ、素直に言うと、ひょいと掴まえて)放ったものだからです。集中の句はそれぞれ、友人のような存在として、ゆらぎながら、息づきながら、おおらかに歩んでほしいと願っています。
とあった。集名に因む句は、
ひとりとてもたのしさう蠟梅ことり 楓子
であろう。ともあれ、愚生好みに偏するが、集中より、いくつかの句を挙げておきたい。
泣きがほのあたまの重さ天の川
たふれたる樹は水のなか夏至近し
滝しぶきねぢれたるまま葉のそだつ
椎若葉こころちひさくなつてきのふ
にんじんサラダわたし奥様ぢやないぞ
身に入むやつてことあるんだか寝ぐせ
寒林へゆく胸のこゑつかひつつ
素足ですし羊歯類の王ですわたし
ひややかに鱗のふるる油紙
陛下ごきげん金魚売かしらなんて
甲虫ちつちやくピースだしていいし
秋やハレルヤ絵具ぐんぐん絞る
月にちかづくまでゆくよ
黄葉ふるしなんかの実もふつてるし
小川楓子(おがわ・ふうこ) 1983年、神奈川生まれ。
撮影・鈴木純一「芍薬はちるのちらぬのちりにけり」↑
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