「俳句新空間」第16号(発売・実業公報社、発行人、筑紫磐井/佐藤りえ)、の特集は「コロナを生きて」。企画文・筑紫磐井「特集・コロナを生きて」に、
(前略)「俳句新空間」では、二年間のコロナ下での状況を伝える俳句、できれば「コロナ」の文字を使わないで分かるものを特集することとした。
これに類似した過去の事件としてはスペイン風邪がある。一九一八年から始まり二〇年まで続いた大流行は、俳句にどのような影響を及ぼしたかあまり定かではない。(中略)大正七年一二月のホトトギスの「消息」では、青峰、虚子をはじめ編集部員が次々に斃れたと記録しているがあまり緊迫感は伝えられていない。昭和八年一〇月号の「座談会」の中で山本京童が外遊中のスペインで罹患した記録を語っているがこれは海外の見聞だ。唯一圧巻の例外は、本田一杉の写生文だ。昭和二年一二月号で大阪商船の船医として乗り合わせた大阪港~ボンベイの航海で船員・乗客がバタバタと倒れる惨状を目の当たりにした。死者はいなかったようだが、火夫が全員倒れ運航不能に陥る。(中略)しかしこれに対して、虚子は関東大震災程大きな関心は払っていなかった(ホトトギスは、震災直後写生文による大特集を行っている)ようなのは、死者数は大きかったものコロナほど社会を震撼させていなかったせではないかと思われる。現在の方が恐怖感は強いようだ。
虚子がやり残した仕事として、この二年間の俳人たちの心情をリアルタイムで残してみることは意味があるのではないかと思った。いずれも明確にコロナと読める句でないかもしれないが、詠んだ作家が、「コロナを生きて」として申告したものであるから、コロナ俳句ということが出来るだろう。
というわけで、25名が参加している。一人一句を以下に挙げておきたい。
つくし摘み手洗ひも消毒する 青木百舌鳥
宿主とパンデミックとか亀の鳴く 神谷 波
窓閉めて春一番をうち眺め 岸本尚毅
目に見えぬ鬼こそ遣らへ年の豆 五島高資
桜蕊降る緊急車輛出入り口 坂間恒子
美容院歯科はためらふ春疫病 迫口あき
花冷のアクリル板に浮く指紋 杉山久子
ス―ス―ハッハ身体が冬にならぬやう 関根誠子
霞つつ疫がしづかな街を得る 竹岡一郎
ランナーの吐く息怖し暮の春 辻村麻乃
窓だけが友となる日よ花は葉に なつはづき
黙読に黙食黙酒そして黙祷 夏木 久
感染のショートメールや梅雨に入る 中村猛虎
核兵器地震雷感染症 中島 進
さうあれは春の風邪から始まつた 仲 寒蟬
しゃべらずはヒトのクサさを花氷 浜脇不如帰
マスクして会えざるままの樹が一本 ふけとしこ
二度洗う三度洗うもマスク風流(ぶり) 堀本 吟
マスクなしに歩けぬ街の大暑かな 前北かおる
脱マスクバイオリズムの狂ひだす 眞矢ひろみ
ショックドクトリン
満開や惨事便乗資本主義 もてきまり
冬青空酸素ボンベが引き出され 渡邊美保
ひと近づいてからマスクする溽暑 渕上信子
死んでゆくあまたの「数」は数ならず 筑紫磐井
木耳になつてしまへば悔いもなし 佐藤りえ
撮影・芽夢野うのき「のうぜんの花咲く下で待ってます」↑
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