工藤進第二句集『羽化』(飯塚書店)、跋は、中尾公彦「句集『羽化』に寄せて」、その中に、
生も死もこの樹と決めて蟬の羽化
Ⅲ章ほ句でタイトル句である。くぢら創刊後の作品で、氏の力強い息遣いや覚悟だ感じられる。俳句指導、周年行事、吟行計画等々多岐に亘る結社運営と氏の詩の飛翔に多忙な片鱗も窺える。その過程での本質に肉迫する様な自己意識の改革も見られる。(夢高く血潮吹き上ぐくぢらかな)の高揚感、(鷹匠の拳を鷹の地軸とす)の透徹した心意気、(白雨浴ぶ身の錆剥がれ落つるまで)の自戒と自愛、(一誌持ち一志つらぬく天狼星)の情熱とエネルギー、(白地着てこころの着てんどこに置く)の精気と心情の揺れ等の葛藤も見える。
とあった。また、著者「あとがき」には、
(前略)未曽有の天変地異、東日本大震災から今年は十一年が経過し今なおその爪痕が深い。また三年前よりコロナ感染症のパンデミックに世界中が苛まされている。この様な困難な状況に出会う度、命とは、生きるとは、戦争とは、俳句とは、日々考えさせられました。そして改めてこの震災や疫病に負けず屈せず、俳句の存在意義を痛感しました。句集を編むのに纏めた句群は色褪せて見える事も多々ありましたが、その時代を己なりに懸命に生きた証と納得いています。
ともあった。ともあれ、集中より、愚生好みに偏するがいくつかの句を挙げておこう。
朧夜のフレスコ画より櫂の音 進
生きて知る水の重さや原爆忌
朝日といふ光の先へ接木せり
蟬声の渦に底なし原爆忌
山の日の鳥語が応ふ鳥語かな
天水にひと世さすらふかたつむり
十年の被爆の海に雁供養
惑星へ電波を放つかたつむり
水の譜の楽となりゆく春の川
遺骨無き人なほ探す桜東風
工藤進(くどう・すすむ) 1953年、北海道室蘭市生まれ。
撮影・中西ひろ美「日に灼けた七夕なれど秋の季語」↑
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