2016年4月21日木曜日

嵯峨根鈴子「一匹死に春の金魚の買ひ足され」(『ラスト・シーン』)・・



句集名『ラストシーン』(邑書林)は以下の句から。

  蜘蛛はクモの仕事に励むラストシーン         鈴子

跋文は、関悦史「狐の言語」、もてきまり「脱皮しつづける鈴子さん」。いずれも著者の俳句を知ろうとするには、見事な手引文である。懇切にして愛情のある玉文。
「あとがき」が、それらの句の在り様をよく語っているように思えた。

 第二句集『ファウルボール』のあとは、機嫌よく道草を食いながら俳句の崖っぷちはどのあたりかと、遊びほうけていたら、野壺に落ちたというタイミングで、病を得た。のっぺりした我が人生の最大のイベントの幕開けだった。
 このピンチに俳句はどれほど役に立ってくれるかと期待していたのだが、期待は外れた。俳句は隙あらば私から逃げようとした。どんなにしっかりと握りしめているつもりでも、ちょっと油断すればすぐに何処かへ転がって行ってしまう。だから私はいつも、俳句に爪を立てるようにしてしがみついているしかなかった。今、辛うじて俳句を書いていられるのは私の強欲のせいである。

なかなかな心ばえであろう。
以下にいくつかの句を挙げておきたい。

   月光をこぼさじと夕顔は自死
   だんまりの母こはかりし曼珠沙華
   鰯雲こひびととふやけてしまひけり
   指でする昼の遊びやほうせんくわ
   脱皮せぬと決めたる蛇の自爆かな
   風船のあつまつてくる徒手空拳
   まんさくの花に匂ひや生きてあり
   一匹死に春の金魚の買ひ足され
   神のどの手もふさがつて色鳥来


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