2018年3月22日木曜日

石原八束「幻氷のせまりくる日の座礁船」(「新歳時記通信」第11号より)・・

 

 前田霧人「新歳時記通信」第11号、号を追うごとにぶ厚くなっている。今号322ページ(奥付含む)、前田霧人の膂力には驚くばかりだ。「後記」には、

 本号の内容は、風、雨以外の「空の題」です。次号の「日、月、星、宙の題」、「地理の題」で一通りの時候、天文、地理が終わりますので、気象データの平年値が更新される二〇二一年くらいを目途に、これまでの分を最初から見直し書き直して単行本化を予定しております。
 本号では明治から昭和戦前期までの歳時記を相当数追加し、西村睦子氏著『「正月」のない歳時記』に記載の歳時記をほぼ揃えることが出来、連歌書の追加、全項目の見直しによる多数の誤記の訂正もして「主要歳時記一覧」を一新いたしましたので、今後は本号のものをご参照下さい。

 とある。そればかりではなく、「新季題」と「トピックス」もある。例えば「新季題」として15以上が立項され、「トピックス」には、

・五五頁。「円虹」(まるにじ)に「えんこう」と振り仮名を振り、「御来迎」傍題としているのは誤りである。

 との指摘などもある。そのページには「円虹(まるにじ)」(晩夏)として、虚子の歳時記ばかりではなく気象学事典など典拠をあきらかにしながら、(一)解説、(二)例句と記されていくのである。この膨大な作業を一人でなしとげようとしているのだから、恐れ入る。今後新たに歳時記が編纂されることがあれば、前田霧人のこの労作を抜きにしては歳時記のレベルを維持できないというべきだろう。
 あと一つ例をあげれば「新季題」に立項された「幻氷(げんぴょう)」には、

 (三)「幻氷(げんぴょう)」(仲春)、傍題=「おばけ氷(こおり)」

(一)解説
➀現代俳句協会編『現代俳句歳時記』、『新版・俳句歳時記』(雄山閣)、『ザ・俳句十万人歳時記』などに記載のある新しい季題であるが、③のように流氷の蜃気楼には三種あり、他の二種と混同され易いので注意が必要である。
②『北の気象』(3月、文献*52)
  「幻氷(げんぴょう」オホーツク海を埋めつくしていた流氷も、三月半ばを過ぎると次第に沖へ遠ざかり、青い海と波の音が返ってくる。そんなころ、水平線上に春の風物詩「幻氷」が現れる。幻氷は、光の異常屈折で沖あいの流氷が海上に浮かび上がって見える現象で、簡単にいうと流氷の蜃気楼だ。
 ゆらゆらと揺れながら刻々と姿を変えるそのさまは、南氷洋に浮かぶ氷山をほうふつさせる。(以下略)

 とある。全体を通してもこれまでの歳時記を渉猟した上での卓見がいくつも示されている。「新歳時記通信」に期待を寄せている人も多いにちがいない。今から次号が待たれる。例句は新しく近年の句が多いのも特徴だろう。ちなみに蜃気楼の例句を以下に挙げておこう。

   蜃気楼どこでもドアが開いており        大角知英子
   蜃気楼途中に鬚を生やしおり           髙橋修宏
   海市から感覚以前のかんかく           山本敏倖
   海市まで絹の産衣を着せにゆく          松下カロ
   うつつ吐くこたへきれずにかひやぐら      嵯峨根鈴子
   質朴なる喜見城(きげんじやう)これ奈良ホテル  関 悦史 



           撮影・葛城綾呂 落椿↑

  


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