2019年3月5日火曜日

中原道夫「この國の燕(ラ・ゴロンドリーナ)空裏返す唄暗譜」(『彷徨』)・・



 中原道夫第13句集『彷徨(UROTSUKU)』(ふらんす堂)、題箋は著者、みごとな装幀は和兎。これまでの句集からの抄出を含み合わせた旅吟・海外詠のみの一集である。著者「あとがき」には、

 拙句に「どのくらゐ血は旅をせり懐手」『巴芹』といふのがある。人間一人の血管を総合すると、赤道を二周半(約10万㎞)と言はれているから、この長さの血管を毎回携へて旅したことになる。約五十年間で地球を五周くらゐ旅をしたのではないかと思ふ。(注:本文は旧かな正字使用)

 とあり、「一緒に旅をした気分になつて戴ければ嬉しい」とある。ブログタイトルにした「この國の・・・」の句には、スペインを旅しての「國土回復運動(レコンキスタ)」と前書がある。というわけで、愚生の楽しんだいくつかの句を以下に挙げておこう(打越?の前書を略したのもある)。

  冬仕度とは薪ならぬ本貯へ      道夫
    二月二十六日 アテネ、シンタグマ広場横のホテルグランド・ブルターニュ泊
  神が神生みたまふ國春愁ふ
    カーニョネグロ自然保護区
  翡翠に追ひつけぬ眼の残りをり
  対岸は亜細亜よ草の絮飛べる
    ボスポラス海峡
  改宗か秋の海月のくつがへる
    玖馬(キューバ)紀行/ハバナ
  革命ののちの夜暗し十字星
    古代球技場
  死を賭せば球技汗より血に替はる
    チャックモール(生贄の墓)
  月の夜まだあたたかき贄を置く
    ニューヨーカーは
  出勤に緑蔭といひ匿路(くけぢ)あり
  手は繋ぎ合ふもの汗は拭き合ふもの 
    フィレンツェ
  歪みはつかに塔いかづちを躱すたび
  春楡となラム固めの枯激し
  ありもせぬ天蓋さぐる冬鷗
    テシィカ峠
  逶迣(もごよ)かに道は下界へ春うらら
  春萌やその先も道あれかしと  
  昇天の手続きもなく自爆・冬 
  死とともに敵意碎ける冬の薔薇
  冬靄を脱がぬ日輪にほひ来る
  
中原道夫(なかはら・みちお) 1951年、新潟県生まれ。
  

0 件のコメント:

コメントを投稿