2014年11月3日月曜日
高橋修宏詩集『MOTHER HOTEL』・・・
まず、愚生の駄句を献じよう。
蘭月の仔どもは爪を剪りそろえ 恒行
高橋修宏(たかはし・のぶひろ)は「豈」同人にして、この度6冊目の詩集を上梓した。その書名が『MOTHER HOTEL』(草子舎)。先に彼が上梓した句集『虚器』、この句集は昨年上梓された句集のなかでは、もっとも質の高い句集の一つであったと思われる。ただ各総合俳誌出版社のアンケートか何かで「今年の収穫」、ベストテンなどではほとんど見かけなかったように思う。この事実は俳句のために憂いてもよい事態であろう。
彼が句集を上梓するたびに愚生が期待してしまうのは、必ず前句集から、句が深みをまして来るからである。『虚器』は『蜜楼』『夷狄』につづく第3句集であった。評論集に『真昼の花火』がすでにある。
彼の今回の詩集を読みこなすには愚生には荷が重いが、それでも以下に書き写す集中の「黙契」は、句集『虚器』における彼の表現意識の根底に触れているように思うのである。
黙契
この国の
蘭月の仔どもたちは、
まず爪を、そして髪を
きれいに剪りそろえられなければならない
下着はすべて脱がされなければならない
裸体の隅々まで洗い浄められなければならない
ときおり黄金の斧が振りおろされなければならない
そして下着という下着は、ただちに
一本の糸へと戻されなければならない
戻された糸からは、
一枚の布が織り上げられなければならない
(炎昼の眩い光に晒された、仔どもたちの声の谺)
形代のような列島をおおう巨大な白布からは、
幾千枚、幾万枚もの旗が裁たれなければならない
それぞれの旗は、夥しい血に染まり、
夥しい汗や反吐や体液を吸い取ったのち、
ふたたび母なる海の水によって、
洗い浄められなければならない
くりかえし洗い浄められた旗は、
来たるべき客人の舟のために振られなければならない
やがて旗という旗が襤褸になり果てるまで、
この国の王という王が絶え果てるまで、
くりかえし振られつづけられなければならない
高橋修宏、1955年生まれ。詩誌「草」編集発行人。誌と批評誌「大マゼラン」同人。俳誌「豈」、「風来」同人。
ピラカンサス↑
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